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船が再び海に戻り幾日か経った。
私がエースと特訓(と言っても大したことをしているわけではないのだが)を初めてから、なんとなくマルコと会う頻度が以前に比べて減っていた。勿論同室なので朝や晩に顔を合わせることはあったが、任務だなんだと船をあけることも増えていた。朝も私より先に目覚めて私が起きる頃にはいないことも多かったし、夜も私が寝た後に部屋に戻ってくる日もあった。
もしかしたら、それがマルコの日常なのかもしれなかった。以前までは突然現れた私の監視と、そして船になじめていない私を気遣って意図的に部屋にいる時間を私に合わせていてくれたのだろう。
そういえば、この船に乗ってからもうそれなりの時間が過ぎているような気もした。最近はサッチ達とも仲良くなって、毎日エースと手合わせに付き合ってもらっていて、マルコ意外にも気さくに話すことが出来るクルーも増えている。マルコからしたら、もう私の子守は卒業したいのかもしれない。


「なんかあったか?元気ねぇじゃん」
「えっ、そうかな、変わらないよ」
「そうか?でもまあ、集中出来ねぇなら今日はもう終わりにして、飯でも食おうぜ」


上の空になりがちだった私に、エースはそう声をかけて手を差し伸べてくれた。その手を取って立ち上がり、私はエースの提案に頷いた。
エースは私の手を引いたまま、食堂へと向かって行った。彼はよくこうして私の手を引いて歩く。「仲が良いな」なんて他のクルーからからかわれると、エースは慌てて私の手を放して顔を少し赤くしながら反論をする。面倒見の良い彼がからかわれると照れてしまう姿を見ると、彼に対して可愛いなと思う気持ちが芽生えて思わず笑顔になることも多かった。

マルコと一緒にいる時間が減った分、私はエースと一緒にいる時間が増えて、今度は彼の隣をウロチョロする雛鳥のようになっていた。エースと一緒にいると、余計な気を遣わなくて良いし、無駄にドキドキすることもなくて、とてもリラックス出来るのだ。
正直、マルコがあまり構ってくれなくなったことに、私は寂しさを感じていた。それを誤魔化すかのように、体術を教わったり、船内で雑用を一緒にこなしたり、何かとエースにくっついて一人の時間を作らないように努力をしていた。
一人になると、マルコに縋りたくなってしまうし、何より私が一人でいるとマルコはまた私に気を遣って彼の本来やらなければならない仕事の邪魔をしてしまうかもしれないという不安があった。構ってほしい気持ちよりも、これ以上彼の邪魔をする恐怖の方が大きかった。

夕食を食べて、いつもより早めに部屋へ引き上げる。エースは私の調子がいつもと違うことを気にしてくれて、部屋まで送ってくれた。


「なんかあったらすぐ呼べよ」
「わかってるよ、エースは心配性だね」
「そんなことねぇだろ、普通だよ、普通」
「ふふっ、ありがとう」


お礼を言うと、エースは私の頭を強くがしがしっと撫でてきた。私がお礼を言うと、いつもこうして頭を撫でてくる。彼と一緒にいると、なんだか少し懐かしいような感覚がある。失っている私の記憶と、彼は何か関係があるのだろうか。そんなことをちらりと考えた時、廊下の先から足音が聞こえてそちらを見ると、ちょうどマルコが戻ってきたところだった。


「マルコさん!」
「…マルコか」
「二人してここで何してんだ」


私は思わずマルコの元へと駆け寄った。こうしてちゃんと顔を見るのは二日ぶりだった。彼は一昨日から近くの船の偵察だとかで船から離れていたのだ。「久しぶりですね」と声をかけると、マルコは私の頭を優しくぽんぽんと撫でてくれた。


「エースが部屋まで送ってくれたんです。ありがとうね、エース」
「おう。…じゃあな、ヒナ。また明日」
「うん、また明日」


エースに手を振って、私はマルコと部屋へと入った。
私はなんて現金なのだろう。マルコの顔を見れただけで、さっきまでの不安が消し飛んで、明るい気持ちになっていた。任務明けで疲れているマルコを気遣いたい気持ちと、久しぶりにちゃんと話せて嬉しくて高ぶる気持ちが、私の中でせめぎ合っていた。

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