37


「……これは、一体どういうことだ」


ミホークさんの低い声で私はうっすらと目を開けた。甘い果実の香りと強いアルコールの匂いを一気に吸い込んで、私は少し咽るようにして起き上がろうとした。
目をこすると、ここが厨房だったことを思い出し、そして体がやけに重いなと背中の方を見ると、私に覆いかぶさるようにしてゾロ君が眠っていた。近くにはペローナちゃんもいて、彼女もまたゾロ君と同じように床に這いつくばるようにして寝こけていた。


「あ、れ……。えっと………」
「とりあえず、こっちに来い」


少し怒ったようなミホークさんの声が先程よりも近くから聞こえて、顔を上げるとしゃがみこんだ彼が目の前にいて少し驚いた。こんな近くにいたなんて。立とうとしたけど、やっぱり自分に寄りかかっているゾロ君が重くて、上手く動けなかった。「ゾロ君、起きて」と声をかけると、彼もようやく目をこすりながら体をどかしてくれた。


「寝ちまったのか……」
「ペローナちゃんも、こんなところで寝てたら風邪ひいちゃうよ」
「う、うーん……」


一体なんでこんなところで三人とも寝こけてしまったのだっけ…と思い出そうとしたその瞬間に私の体は宙に浮いた。あれ?と思ったときには、まだ床に座り込んでいる二人を見下ろすような体勢になっていた。そして、私は今自分がミホークさんによって横抱きにされていることをようやく自覚する。


「ミ、ミホークさん?」
「お前ら、ここを綺麗に片しておけ。いいな」
「……お、おう…」


ゾロ君がなんだかよくわからないといった表情でミホークさんの言いつけに対して返事をしていた。
私は抵抗する暇もなくミホークさんに自室まで連れて行かれる。ベッドにぽんと降ろされて、そしてそのままミホークさんは私の顎をやや乱暴に掴んで上を向かせ、噛みつくような口付けをされた。


「んんっ……ふぅ…!!」


何度も何度も角度を変えて、逃げても逃げてもミホークさんの舌に絡み取られてしまう。思わず漏れてしまう吐息に甘い声が交わって恥ずかしさが増す。ミホークさんにしがみつくようにして私はどうにか甘い刺激に耐えようとしていた。
激しいキスを終えて、ミホークさんは私の首筋を嗅ぐように鼻先を近づけて小さいキスを落としていく。今度はくすぐったさに身をよじると、「逃げるな」と少し怖い声で言われてしまう。


「に、逃げてるわけじゃ…」
「……におう、な」
「えっ」


ぽつりとミホークさんはそう言った。私は驚いて体を少し離して自分の体の匂いを嗅いでみた。確かに、果物やお酒が混じった甘ったるい匂いが体からしていた。


「ごめんなさい、すぐにお風呂入ってきます」
「行くな。しばらくおれのそばにいろ」
「え、で、でも、臭うってミホークさんが…」
「…どれくらい、あそこで寝てたんだ」
「どれくらい、だろう……」


ようやく事の経緯を思い出す。そうだ、ペローナちゃんと一緒にミホークさんのお酒を使ってサングリアを作っていたんだ。
途中でゾロ君もお酒の匂いに釣られてやってきて、「最近ようやく禁酒が明けたんだ」と普段甘いお酒などほとんど飲まないのに、私達が作ったサングリアを片っ端から飲み始めてしまったのだ。ペローナちゃんはそれを見て「このままだと作った酒、全部コイツに飲まれちまう!」と慌てて自分でも飲みだして、私もついつい飲みやすいサングリアを片手におつまみを食べながらお話をしていたら、気が付いたときには眠ってしまっていたのだった。
窓の外を見るともう大分暗くなっていた。飲み始めた時はまだ日は高かったはずだから、数時間は寝こけていたのだろうか。返答に悩んでいると、ミホークさんは私にもう一度触れるだけのキスをして、それから軽くおでこを小突いた。


「お前は、余程おれを妬かすのが好きらしいな」
「ミホークさん?」
「ちょっと目を離した隙に、他の男と寝るのは想定外だった。……このまま、部屋に閉じ込めておいた方が、余計な心配をしなくて済むかもしれん」


冗談とも本気とも取れるような言い方だった。ゾロ君に寄りかかられたまま寝てしまったことを言っているというのは、幾ら鈍い私でもすぐに分かった。私は慌てて「ごめんなさい」と謝ると、ミホークさんは優しく頭を撫でてくれた。そしてもう一度私を抱き上げて、ベッドの上に腰かけたミホークさんの上に向かい合う様にして座らされる。密着する体に、思わず体温が上がる。


「まあ、今のは冗談だ」
「そ、そうですか」
「だが、あまりこういうことをやらかすようなら、本気で考えるぞ」


唇をなぞるように撫でられて、またぞわぞわとした感覚が沸き上がる。赤くなってしまった顔を隠すように背けたが、「なぎさ」と優しく名前を呼ばれてしまい、ゆっくりとミホークさんに目を向けた。


「お前は、おれのものだ。……違うか?」
「違わない、です。ミホークさん」
「分かっているなら、良い」


抱きしめられる力が少し強くなった。嫉妬してもらえることが心地よいなんて言ったら、また怒られてしまうかもしれない。
躊躇いつつも抱き返すと、また名前を呼ばれた。返事の代わりに抱きしめる力を少し強くして、もっともっと、私の体温が彼に伝われば良いのに、と思った。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -