20


遅めの朝食を終えて、気が付くとマルコは何処かへ行ってしまったようだった。
今朝のサッチとの会話を思い出す。本当に、彼は私に乱暴しようとした男達を捜しに行ったのだろうか。彼の行動や感情は、私には少し難易度が高すぎるように思う。大切に扱ってもらえているということだけは分かるが、私に向ける笑顔はどこか本心じゃないような、もっと別の感情を隠し持っているんじゃないかと、そんな気がするときがある。
部屋に戻ろうとしたところエースに遭遇し、彼は私を見つけるとすぐに駆け寄って来てくれた。


「ヒナ、お前怪我したんだって?大丈夫か?」
「怪我は大したことないよ。昨日、マルコさんが治してくれたし」


手首の掴まれた痕は昨日に比べたら大分薄くなっていた。あの青白い炎は治癒能力を高めてくれるらしい。手首をさすりながらそう答えると、エースは眉を下げてため息を吐いた。


「おれも近くにいれたら良かったんだけどな。ごめんな、ヒナ」
「エース君が謝ることじゃないよ。私の不注意が招いたことだし…。むしろ、気を遣わせちゃって、ごめんね」
「ヒナはなんも悪くねぇよ!おれもサッチ達んとこ合流して、ヒナのこと襲った連中に一発お見舞いしてくるか……」
「えっ!そ、それはいいよ、それより一緒に少し散歩しようよ。マルコさんもいなくて、私暇なの。ね?」


私に乱暴してきた男達を心配するつもりはサラサラ無いが、あまり大事にもしたくなくて、私は慌ててエースに船内に留まるように提案してみる。彼はちょっと驚いたように目を開いたあと、「まあ、ヒナがそう言うなら」と一緒に船内をぶらつくことを了承してくれた。
優しいエースはよくこうして私を気遣ってくれる。何かと声をかけてくれるし、おそらく年も近いので船内でマルコの次に話しやすくて気さくな存在だ。
クルーからもよくちょっかいを出されたり、言い返したり、皆から好かれているのだろうなということが雰囲気でよくわかった。
彼は楽しい話題を幾つか振ってくれたが、私が何処か明るい気持ちになりきれず思ったほど弾まなかった会話にエースはまたため息を吐いた。


「なんか悪いな。こんな話しても、お前楽しくねぇよな」
「えっ、ううん!そんなことないよ、気を遣わせてごめんなさい。エースくんの話は楽しいよ、私が悪いの」
「でもよ……」
「あのね、私、やっぱり弱いなぁって。そう思ってちょっと落ち込んでたの」


せっかく私を元気づけようとしてくれたエースに悪いことをしてしまったと思い、躊躇いつつも今自分が一番気にしていることについて彼に話してみた。
エースは自然に耳を傾けてくれる。今度は私が大きくため息を吐いた。


「マルコさんに一人でも自分の身を守れるように色々教えてもらっていたのに、結局本当にピンチの時には怖くて竦んで、何もできなかったの」
「でもそれは、悪いのはヒナじゃなくて」
「違うの。私が悪いの。私、この船にいても、何の役にも立っていないし、それどころかこうして助けてもらってばかりで、……ここにいても大丈夫なんだって、思えるようになりたいの」


エースは黙って私の話を聞いてくれた。そして「そっか」とだけ最後に呟いた。こんなこと話されても、困ってしまったかもしれない。私はもう一度ごめんねと言おうとしたら、エースは私に手を差しのべてきた。どういうことかと首をかしげると、「じゃあ、俺とも特訓しようぜ」と言い出した。


「特訓?」
「要するに、強くなれば自信が付くってことだろ?それならおれとも特訓して、鍛えようぜ。大丈夫、おれに任せとけ!」


にかっと満面の笑みを浮かべたエースの言葉に、思わず私の心は軽くなってフフッと笑みがこぼれてしまった。彼の無邪気な明るさは、私のグズグズと悩んでいた心をぱっと明るく照らしてくれた。


「エースくん、ありがとう。じゃあお言葉に甘えて、お願いします」
「おう!早速外行くか!」


私も彼に手を差し出すとぎゅっと手を握って、そして駆け出すように船の外へと向かった。気が付いたら雨はやんでいて、少しだけ明るくなった空が眩しく思えた。

 

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -