19


マルコの腕の中は温かくて、私はぐっすりと眠ることができた。夢をみたような気もするが、思い出せなかった。
翌朝目を覚ますと、既にマルコはベッドからいなくなっており、私は一人ゆっくりと起き上がって窓の外を眺めた。今日もまた雨が降り注いでいた。

着替えを終えたところで、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。私が返事をすると、勝手に扉が開き、そして投げ飛ばされるようにサッチが部屋の中へと入ってきた。


「え、サッチさん?」
「痛ェ…何も投げることねぇだろ!こっちは怪我人だぞ!お前のせいで!」
「お前はさっさとヒナに謝れ!お前が面倒みるっていうからおれはヒナを任せたんだ。それなのに……」
「わかった!わかってるって!ヒナ!本当に本当にごめんな!」


状況から察するに、昨日の夜私から目を離したことをマルコに詰められているようだった。サッチの顔は大きく腫れていて、既にマルコから相当絞られていることがありありと分かった。マルコの剣幕に少し驚きながら、大丈夫ですよと私は返事をした。


「マルコさんが助けてくれたし、結果的に怪我だってほとんど無いし…」
「変な奴らに襲われたんだって?怖かったよな…本当にごめん」


サッチは首根っこをマルコに抑えられながらシュンとしてそう謝ってくれた。申し訳ないと思っている気持ちは本物のようで、勝手に店を出たのは自分でありいたたまれなくなって私は「もういいですよ」とマルコへと掛け合った。


「ヒナがそう言うならいいが…。お前にはもう二度とヒナを預けねェよい」
「いやていうかさ、元はと言えばおれ達はお前に気遣ってヒナを預かろうと……」
「サ、サッチさん!」


そういえば、と思い出す。そもそも私がサッチ達と行動することになったのは、マルコにも一人で過ごす時間(具体的に言えば私じゃないちゃんとした女性と過ごす時間)を与えてあげたほうが良いのではという話が発端だった。私は思わずサッチの言葉を遮った。マルコの女性事情を聞きたくなかったし、第一異性のそういった話に対する免疫が私にはまだまだ足りなかった。
マルコは私をちらりと見て、ため息をついた。彼は昨日からよくため息をついている。私はその姿を見て少しだけ不安になる。


「まあいい。お前、今から街に行ってヒナを襲った連中探してこい」
「えっ、この雨の中?おれが?」
「他に誰がいるんだよい」
「わ、わかったって!今すぐ行くからさ!もう暴力反対!」


雨がどんどん強くなる窓の外を見てサッチはマルコの頼みを嫌がったが、マルコが一歩近づくとすぐに分かったと慌てたように返事をしていた。


「見つけたらどうすりゃいいんだ」
「適当に捕まえておけ」
「捕まえて、そのあとは?」
「連絡くれたらおれがそこへ行く。ヒナに手ェ出した落とし前、きっちりつけねェとな」


口調は重くなかったがマルコの目は笑っていなくて、冗談とも本気ともとらえることが出来て私は苦笑いをした。多分サッチもひきつるように笑っていたと思う。彼は私にもう一度「ごめんな」と謝ってから頭をくしゃっと軽く撫でて、部屋を出て行った。
マルコは私に向き直り、そして彼もまた私の頭を優しく撫でてくれた。


「昨日は、寝れたか?」
「はい、おかげさまで。マルコさん、腕痛くなかったですか」
「お前みたいな軽い奴乗ったところで痛くも痒くもねェよ。ちゃんと寝れたなら、良かった」


さっきまでの少し冷たく怖い目と違い、彼は優しい目で微笑んで私を見つめていた。昨日の夜から迷惑をかけっぱなしなのに、彼は私に対して面倒そうな素振りは一切見せていなかった。それがまた、逆に私をいたたまれなくさせていたのも事実だった。
「飯は食ったか?」と聞かれて「まだ」と答えると、肩を支えるようにして軽く抱いて「じゃあ一緒に食いにいくか」と食堂へと向かって歩き出した。




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