18


 
「とりあえず、お前はこれ着てろ」
「え、でも」
「そんなんじゃ、この路地からだって出れねェだろい。いいから、早く着ろ」


マルコは自分が着ていたシャツを脱いで有無を言わさず私に渡してきた。突然目の前で服を脱がれてマルコの上裸を目にすることとなり、思わず顔を赤らめて俯いてしまう。私はごめんなさいと謝りながら彼の服を着る。男達に服を破かれて下着が丸見えの状態では、確かにここから動くことすら出来なかった。さっきまでマルコが着ていたシャツから体温を感じて、私の脈は更に高まっていく。

先程までの恐怖はもうほとんど無かった。マルコに抱きしめられて、安心することが出来て、大分リラックスできたのだと思う。
私が服を着たのを確認してから、彼は片手で私を抱いて、そして地面を蹴ったかと思うとあっという間にと空へと舞い上がった。何事かと驚いてマルコを見上げると、どうやら彼は不死鳥の姿になっていて飛んで船まで戻ろうとしているらしかった。キョロキョロしだした私に「しっかり両腕を俺の首にまわせ」と言い、私は言われた通りに彼の首にぎゅっと腕を回し、両腕とも翼になった彼によって船まであっという間に運んでもらうこととなった。


部屋についてゆっくりと降ろされて、とりあえずシャワーを浴びてこいと風呂場へと押し込まれた。泣いてしまった顔は確かに汚かったし、必死に抵抗した際に汗もかいていた。体中に纏う気持ち悪さを洗い流してしまいたかった。
シャワーを浴びて幾らかスッキリとして部屋に戻ると、マルコは温かいコーヒーを入れて待っていてくれた。一口飲んで、ようやくほっと息をつくことができた。マルコは私を椅子に座るように促すので、素直に従うと、先程男達に強くつかまれた手首を取って「痛むか?」と聞いてきた。確かに、相当強い力だったのだろう。腕には男達の手形がありありと残っていた。つかまれていた感触も、まだ少し残っている。私は「少しだけ」と答えた。


「ったく……、なんで一人で店を出た。こうなること、予測できなかったわけじゃねェだろい」
「ご、ごめんなさい」
「お前は本当に……」


マルコの手は青白く燃えて、私の手首をそっと包み、傷を癒してくれた。それは不思議な感覚だった。熱くない、綺麗な炎。腕の赤みはだいぶ引いて、他に痛いところは無いかと聞かれて私は首を横に振った。幸いにも、怪我らしい怪我はほとんどしていなかった。
炎が消えた後も、マルコは私の手首をつかんだままだった。どうしたのかと問いかけようとしたとき、彼は私の手首をそっと手元に引き寄せて、そして先程まで赤い痕がついていた箇所に優しく口付けた。


「っ…!?」
「…悪かった」
「マルコ、さん?」
「次は絶対守ってやるって言ったのにな」


口付けられた箇所から、じわりじわりと熱が広がっていく。マルコは何故か悲しそうな顔をしていて、一体どうしてそんな表情をするのか私にはわからないから、困ったように彼を見上げていた。悲しそうな顔に見えたけど、怒っているような気もして、何て返せばいいか分からず私は口を閉じたままだった。

しばらくそのままの態勢だったが、やがてマルコは「寝るか」と声をかけて立ち上がった。私も頷いてベッドへと向かった。彼は私よりも先に自分のベッドに入り、そして私に背を向けて寝てしまった。
私は寝ころんだマルコの背中をベッドに腰かけながらぼーっと眺めていた。


「寝ないのか」
「寝ますよ」
「疲れてるだろ。早く寝ろ」
「…はい」


背中を向けているのに、彼は私が寝ていないことを分かっているようだった。私はそう返事をしたけど、だけど動くことが出来ず、ベッドに腰かけたまま、再び彼の背中を眺めていた。
マルコの背中から大きなため息を吐く音が聞こえ、彼はゆっくりとこちらを振り向いた。そして腕をこちら側に向かって大きく伸ばして顎でくいっと自分の腕と体の間の空間を指し示した。


「え、あの…?」
「一緒に、寝るか?」
「……いいんですか」


ドキッ、と心臓が大きく揺れた。マルコは、「寝るなら、早く来い」と返事をした。
私はゆっくりと立ち上がって、緊張しつつも彼の隣にすっぽりと収まるように寝ころんだ。腕枕をしてもらうような形になり、私はマルコの方を向いて、厚い胸板に向き合った。心臓が大きな音を立てている。この音は、マルコにも聞こえているのだろうか。聞こえていたらどうしよう。恥ずかしくて、顔を上げることなんか出来なかった。


「あの、腕、辛くないですか?」
「問題ない」
「そう、ですか…」


マルコは優しくあやすように私の肩を撫でた。マルコのシャツをぎゅっと掴むと、頭上から大きく息を吐く音が聞こえた。
シャツ越しに感じるマルコの鼓動は、想像していたよりもずっと早かった。

 

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