17


ヒナに誘いを断られるとは思っていなかった為、手持無沙汰の夜を過ごしていた。

昼間、ヒナと一緒に来たサッチに「今夜はヒナはこっちで預かるから」と言われ、それに頷くヒナを見て、どうにも意地を張ってしまった部分があることは否めなかった。自分だけが彼女を分かってやれると、そう自惚れていたことを自覚してしまい、サッチの提案を肯定することしか出来なかった。


確かに、夜を一人で過ごすのは久しぶりだったかもしれない。他のクルーと飲む気にもなれず、一人夜の街をぶらついた。サッチ達が行く店の目星は大体ついている。大方、ヒナもそこへ連れられているだろうから、近くの店で時間を潰して頃合いを見て迎えに行こうか、なんて考えていた。
どうせあいつらは自分から連れ出したくせに、ヒナのことなんかすぐ頭から消えて遊びに夢中になるのは目に見えている。ヒナに対して過保護だと言われているのは知っていたが、それを否定する気は無かった。いつも何処となく不安げな彼女を放っておけないのは事実だったし、彼女に構うことは自分にとっても心地よい時間だった。

適当に入った店で一人酒を頼んでいると、商売女だろうか、隣の席に女が一人座って声をかけてきた。ヒナのことが気がかりで、到底そんな気分になれそうもなくあしらったつもりだったが、女はしつこく俺を誘ってきた。いい加減面倒になってきたあたりで、店の外からか細い女の悲鳴のような声が聞こえた。

杞憂であってほしいと思いながら、俺は女を振り払って急いで勘定を済まし、早足で店を出た。一旦立ち止まって耳を澄ますと、確かに女の嫌がる声が聞こえてきて俺は先を急いだ。


そして、見つけた路地裏で。嫌な予想はいつだって当たってしまう。男達に襲われかけたヒナは、服を割かれていた。彼女に触れる汚い手。気が付くと頭に血が上って、男達をあっという間に薙ぎ倒していた。

俺を見て彼女は怯えていたと思う。腕を伸ばすと首を竦ませる。その時、俺は確かに彼女に対して、愛おしいという感情を抱いた。


「ヒナ」


思わず名前を呼んだ。それは俺達が勝手に名付けたもので彼女の本当の名前ではなかったが、俺にとって彼女はヒナ以外の何者でもなかった。
以前敵船の残党に襲われたヒナを見た時も、頭に血が上って自分で抑えきれないほどの焦りや苛立ちを感じたが、今回はそのときの比じゃない程大きく感情が動いた。

ヒナには誰一人触れさせたくない。彼女を傷つけたくない。俺が、守ってやりたい。

この執着が、独占欲が、恋じゃなくてなんだというのだろう。彼女の保護者でありたいという隠れ蓑の中で、いつのまにこんなに感情が育っていたのだろうか。


「船に、帰るぞ」
「はい」


腕の中でヒナは小さく返事をした。このかよわく儚い少女を、ずっと腕の中に閉じ込めておきたい。どうしようもない欲求に抗えず、俺は帰るぞと言ったもののしばらくその場から動かずに、ただ彼女を強く抱きしめ続けた。

  

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