15


サッチに連れて行かれた酒場は、露出の多い服を着た(というよりかは最早布切れを身に纏ったという表現がしっくりくるような)綺麗なお姉さんたちがお酌をしてくれる少しいかがわしい感じのお店だった。
お店に着くなり私のことなどそっちのけではしゃぎだすクルー達を見て、私は大きなため息を吐いた。こうなることが予想できなかったわけではないが、マルコとの約束をあんな風に反故にした手前今更引き返すことも出来なかった。
手持無沙汰な私を見かねたお姉さんたちが私に気を遣って話し相手になってくれた。お酒を勧められたけど、お酒を飲んだこともない私は何となく不安で断ったが、嫌な顔をせずにジュースを注いでもらって、それがまた自分の子供っぽさを強調するようで少し悲しくなった。


「貴女も、海賊なの?」
「あ、いや、私は居候っていうか…」
「あらそう。で、一体どの人が気になるのかしら」
「えっ!」
「だって、浮かない顔しているもの。女の子がそういう顔をするときは、恋って決まってるのよ」


私にジュースを注いでくれたお姉さんが話しかけてくれる。「恋」という単語に大袈裟に反応してしまい、私はノンアルコールを飲んでいるにも関わらず頬を赤らめてしまう。
私は「恋」をしていると、自覚してもいいのだろうか。思い浮かぶのはマルコの姿。私を見守ってくれる彼は、あくまで保護者で、私は彼の庇護下にいるというだけで、決して特別な存在ではない。
私が悩んで俯いてしまうと、クスクスとお姉さんの笑う声が聞こえて顔を上げた。


「そうやって悩んでる時点で、恋なのよ」
「……でも…」
「そう決まってるの。もう遅いわよ。ここにはいない人ね?」
「…お姉さん、占い師ですか?」
「まさか!貴女がとっても分かりやすいだけ」


ほとんど何も説明していないのに、私の今の心中を言い当てた彼女は可笑しそうに笑っていた。感情を隠すのが上手な方だとは思わないが、出会って数分も経たないうちにこんなにもバレてしまうなんて、自分がちょっと情けなくなる。
お姉さんは他の卓に呼ばれてしまい、「頑張ってね」と私に声をかけて離れてしまった。ポツンと座って飲み物を飲んでいると、既に酔っぱらったサッチがようやく私に気付いたようで笑顔で手をブンブンと振りながら「ヒナ!飲んでるか!」と話しかけてきたが、私は曖昧に笑って誤魔化した。飲んでいないと言ったら無理にでもお酒を飲ましてきそうな雰囲気を察して、私はお手洗いに行くと近くにいたクルーに声をかけて席を外した。

お手洗いを済ませて席に戻ろうとしたが、先程まで私が座っていた場所には別の客が座っており、サッチ達は相変わらずバカ騒ぎをして私のことなど既に頭の中から消え去っていそうだったので、ちょっと風にでも当たろうと店を出ることにした。

お店を出ると、夜の街は確かに怪しい雰囲気で、ガラの悪い男の人と客を引こうとする女の人があちこちにいてなんだか目のやり場に困ってしまう。すぐ近くの路地裏では我慢できなかったのか、情事に勤しむ男女がいて私は慌てて踵を返した。やっぱり、お店に戻ろう。お店も別に居心地が良いわけじゃなかったが、ここで一人歩くよりは遥かにマシだろう。
しかし私はお店に着く前に、行く手を見知らぬ男達に阻まれてしまった。


「あ、あの………私………」
「ようやく見つけた。俺はこういう擦れていない女がタイプなんだ」
「頭ァ、こいつ、商売女には見えねぇけど」
「馬ァ鹿、そういう風に見せるための演技だよ、演技。こういうタイプはそれが売りなんだ」


違います、と言っても私の言葉は聞こえていないらしく、手首を掴まれてしまい動けなくなる。マルコと護身術の練習をあんなにしていたというのに、いざとなると恐怖で体が震えて力が入らず、なんの役にも立たなかった。夜の暗さが絡まれている私の姿を闇に隠す。あたりには他にも人がいたけれど、誰一人としてこちらを見ておらず、助けてもらえそうな雰囲気ではなかった。
大声を出せば誰か気付くだろうか。男達は私の腕を引っ張って近くの宿屋へ連れ込もうとする。「やめて!」と上ずった声で叫ぶも、「いいなぁ、そそるぜぇ!」とまるで私の拒否が演技かのような反応しかせず、周りもそれを信じてしまい全く拒絶の意味をなしていなかった。
どうしよう、どうしよう。焦りで視界が揺れる。頬が濡れる感覚に、私は自分が泣き出してしまったことを知る。男達を振り払うことも出来ず、泣き出すことしかできない自分の情けなさに消えてなくなりたい気持ちでいっぱいになる。ぎゅっと瞑った瞼の奥に思い浮かんだのは、マルコの姿だった。



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -