34


「ゾロ君、ちょっと待って!」
「ん?」


傷の手当もそこそこにゾロ君は立ち上がってしまう。慌てて座らせてまだ手当の終わってない箇所に包帯を巻くために準備をする。
ミホークさんとゾロさんの修行は、私からするといつもヒヤヒヤである。どちらも真剣を使っており、上手く避けれないと勿論切り口から血が流れる。ミホークさんとゾロ君にはかなりの実力の差があるらしく(これを言葉に出すとゾロ君は不機嫌そうになるからあまり言わないが)、怪我をするのは専らゾロ君の方だった。ミホークさんがほとんど怪我をしないことは私にとって嬉しかったが、かといってゾロ君の怪我が増えることが心配じゃないわけではない。
怪我の手当の仕方はミホークさんに教わった。私は出来る限り二人を手伝って、普段の修行の怪我程度なら一人で対応できるようになった。


「ほら、終わり。安静にしててね」
「そうだな、努力する」
「絶対しないでしょ!そんなんじゃ、もっと大怪我しちゃうよ」
「大丈夫だ、おれは強い」
「もう…」


ゾロ君はあまり人の話を聞いてくれない。絶対安静と言っても気が付いたら筋トレをしたり体を動かしてしまっているのでもう半ば諦めている。
今日はもうミホークさんに稽古をつけてもらう時間は終わったらしく、あとは自主練だと言っていた。無茶しないように見張ろうとゾロ君の後をついていっていると、ちょうど城の中でミホークさんに会った。
シャワーを浴びていたようで、髪の毛が少し湿っていた。ゾロ君は今日もコテンパンにやられたのが気まずかったらしく、謎に会釈をしてさっとその場を去ってしまった。私も彼の後を追おうとしたが、ミホークさんに手を掴まれて阻まれてしまった。


「ミホークさん?」
「…あいつと、一緒にいたのか?」
「はい。怪我の手当をしてました。今日もたくさん怪我してたから…。ミホークさんはお怪我が無くて良かったです」


そう笑うと、手を引いてミホークさんはゾロ君が向かった方向とは逆方向に歩き出した。


「あの、何処に…?」


聞いても返事をしてくれなかった。少し怒っているようにも見えて、機嫌が悪かったのかな、と不安になる。しばらく歩くと、ミホークさんの部屋について、そのまま中へと通される。何か用事があったのだろうか、と不思議に思っていると、振り返ったミホークさんが今しがた閉まった扉に腕をついて私をその場から動けなくさせた。そして、どうしたのかと問う前に、唇が重なって私の心臓は大きく揺れた。


「……っ!」


いきなりのことだったので口が半分開いた状態だった。初めてキスしたときはその回数を数えたりなんかしたけど、今ではもうそれがいかに子供っぽいことだったか自覚出来るくらい何度も唇を重ねてきた。
だけど、今日は違った。歯と歯の間をこじあけるようにミホークさんの舌がにゅるりと口内に入ってきて、思わず息が漏れる。さらに開いた口の中を、丁寧にミホークさんが荒らしていく。吐息が漏れて、ぞくぞくとした感覚が体を走る。私はあっという間に立っていられなくなり、ミホークさんに縋りついた。力の抜けた私に気付いたのか、腰を支えられるが唇は離れない。どうやって呼吸を続けたらいいか分からなくなり、酸欠に近い状態になった私は苦しくなってミホークさんの胸元を弱弱しく叩いた。

ようやく唇が離れて、私は大きく深呼吸をした。まだ力が入らない。抱きかかえるようにしてミホークさんは近くのソファに私を連れて行き、そして膝の上に座らせて後ろから抱きしめた。


「あ、あの、ミホークさん…」
「すまない」
「え?」
「言ったろう。おれは心が狭いと」


先日の会話を思い出す。だけどそれが今の行動とどう繋がるのか。
私の頬は相変わらず熱かった。先程のキスの余韻がまだ覚めずにいる。


「お前が他の男と一緒にいるところを見るだけで、余裕が無くなる」
「他の男って……ゾロ君?私、ゾロ君とはなんでもない…」
「分かっている。それでも、だ」


先程よりも抱きしめる力が強くなる。きゅん、と胸が締め付けられる。
やきもち、妬いてくれているということだろうか…。嬉しくて、頬がにやけてしまう。いつも余裕たっぷりなミホークさんのこんな姿を見ることが出来るなんて。
私が笑っているのに気付いたのか、ミホークさんは少し不機嫌そうに私を持ち上げて向きを変えさせた。向かい合わせになって近づく顔に、また少し赤面。


「まったくお前は…」
「はい、なんでしょうミホークさん」
「……あまりおれを妬かせるな」


コツンとぶつかったおでこ。恥ずかしいけど、なんだかミホークさんを可愛いと思えて、私はニコニコと笑いながらごめんなさいと謝った。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -