33


ミホークさんと気持ちが通じ合って、数日経った。一時的になくしていた記憶をゆっくり埋めるように、私はミホークさんのなるべく近くにいるようにしていた。
私の記憶は、どうやら中途半端にしか戻っていないみたいだった。確かに、この城に来る前のことはもやがかかったように何一つ思い出せないのだ。ミホークさんが言うには、私もゾロ君やペローナちゃんと同じく何処からか突然現れたらしい。自分の出自が思い出せないのは不安でもあったが、しかしここでの生活には何ら支障はなく、そのうち思い出せればいいやくらいのスタンスでいることにしていた。


「おい、なぎさ」
「なあに?どうかした、ペローナちゃん」


ペローナちゃんに呼び止められて私は彼女のもとへ駆け寄った。なんだか不服そうな顔をしている彼女に首をかしげる。


「いつまで黙っているつもりだ?」
「えっ?何を…」
「記憶、戻ったのだろう?」


はっと私は口に手を当てた。そうだ、記憶が戻ったこともミホークさんとのことも彼女にはまだ話していなかった。
ミホークさんと思いが通じ合ったことを話すのが、なんだか気恥ずかしかったのだ。私はごめんねと謝りつつも、記憶が戻った経緯について話した。


「そうか…。まあ見たらすぐ分かったが、それでも私はなぎさから話してほしかったぞ」
「う…ごめんね。たくさん心配かけたのに…」
「まあ、上手くいったならそれでいいが。今度ちゃんと埋め合わせをしろよ!」


意地悪そうにそう笑いながら言ったペローナちゃんに私は思わず抱き着いた。こうして心配してくれる可愛い友人がいることが、なんだかとてつもなく嬉しく思えたのだ。突然抱き着かれたペローナちゃんはびっくりしていた様子だったが、子供あやすように頭を撫でてくれた。
そこへ足音が聞こえて私は振り返った。そこにいたのはミホークさんだった。


「……何をしてる」


ペローナちゃんに抱き着いている私を見てミホークさんは不思議そうな顔をしていた。人に見られるとなんだか恥ずかしくなり、離れようとしたがペローナちゃんに腕をぐっと引かれてしまう。


「ペローナちゃん?」
「見てわかるだろう。スキンシップだ」
「………ほう」
「お前だけのなぎさじゃないってことだ!」


一体ペローナちゃんは何を言っているのだろうか。ミホークさんの顔が少し曇っていく。…なんだか、機嫌が悪そう……?


「あ、えっと、二人とも……?」
「おれの許可無くなぎさに触れるのは、例え女でも許さん」
「お前の許可なんているか。私は触りたいときになぎさに触るぞ!」


ペローナちゃんにほっぺをつままれて私は変な声が出てしまい顔を赤らめた。なんだってこんな、私の取り合いみたいなことが始まってしまったのか…。
ミホークさんの目がキラリと光り、ゾロ君との修行途中だった為か手に持っていた剣の鞘に手をかけたところでペローナちゃんはぱっと手を離して、「本気にするなバーカ!」と捨て台詞を置いてふわふわと浮かびながらどこかへ行ってしまった。


「あ、ペローナちゃん……」
「大丈夫か?」


つままれたほっぺをそっと指で労るように触るミホークさんを見上げた。記憶が戻ったことをちゃんと伝えてなかったから、話していたんですと説明をした。
話しながら、じっと顔を見られているのがなんだか恥ずかしくて、私は視線を逸らした。


「気付かぬうちに随分と仲良くなったのだな」
「ペローナちゃん、良い子で優しいです」
「……妬ける、な」


ぽつりと呟いた最後の言葉を聞き返そうとしたら、ミホークさんにぎゅっと抱き寄せられた。ドキドキと高鳴る心臓。私はミホークさんの服の裾を握った。


「ど、どうしたんですか?」
「いいや。自分の心の狭さを今更思い知っただけだ」
「…?ミホークさんは、心が狭いなんてことないと思いますけど…」


見ず知らずの私をこのお城に置いてくれて、こうして優しく大切に扱ってくれるミホークさんの心が狭いとは到底思えない。
そう言うと、ミホークさんは笑いながら私の髪の毛を撫でた。



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