ボーダーライン | ナノ



生まれたときから私の犯罪係数は99で、生まれたときから兄の犯罪係数は0だった。ふたりとも、それから数値が変動したことはない。ただの、一度も。

特殊体質。気味悪がった母に、医者はそう言った。原因はわからないが色相が安定しているのはいいことだからと、困惑した顔を無理に浮かべた笑顔のオブラートに包んで、母をそう丸め込んだ。

そう。ただの、一度も、数値が動いたことなどなかったのだ。


『犯罪係数302・執行対象です。リーサル・エリミネーター。慎重に照準を定め、対象を排除してください。』


姿を凶悪なものに変貌させるドミネーターを見た彼の目が、大きく見開かれた。信じられないものを見るような目だった。

そうかもしれないな、と思う。生まれてこのかたずっと彼の色相は限りなく白に近いクリアカラーで、犯罪係数は0だった。


「……撃つのか、俺を」


静かに、彼は私を見る。男女には珍しい、一卵性の双子だった。私と、同じ顔。


「撃つわよ」


トリガーに掛けた指先に、ゆっくりと力を込める。迷いは、なかった。


「シビュラが決めてくれたんだもの。あなたは執行対象だって」


引き金が、カチンと音を立てた。緑色の閃光が眩しくて、最期の彼の表情は見えなかった。

最初は、腕だった。

ぶくぶくと皮膚が泡立って、膨らんで、赤が弾ける。べちゃりと、彼の血が私の髪へ降り注いだ。

次は肩。それから頭部。

脳みそが、頬に跳ねた。手の甲でぐいと拭ったそれはどろりとしていて、異臭を放っていた。ころころと大きく瞳が見開かれた目玉が視界を横切っていった。

その次は腹。そして、最後に足。

千切れた内臓が、私の革靴の手前に落ちる。黄色い脂肪がまとわりついていた。じわりじわりと染みのように広がる血溜まりを避けるように、一歩引く。

私は、“兄だったもの”を見下ろしていた。今ではすっかりただの肉塊となってしまった、それを。


「……ミツル、」


ドミネーターを抱えて、力が抜けたようにしゃがみこむ。

自分で、決めたことだ。自分で決めて、引き金を引いたのだ、私は。後悔をしているわけでは無い、けれど。

その日、私の色相に変化はなかった。

犯罪係数も、動くことはなかった。



!caution!
サイコパスゼロ・名前のない怪物の原作沿い。
デフォルト:夜鳥 郁(やとり かおる)
特異体質の監視官。
ミツルという名の双子の兄がいた。
佐々山光留と同じ年に入局。
佐々山の生死は原作通りです。神青要素あり。



(20200714)

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