Can we hug?

「……はぁ」

セブンスヘブンのカウンターでバレットと談笑する、───もとい笑ってるのはバレットだけだけど、クラウドの背中を見つめて溜息をひとつ。今日も見蕩れるほど格好良い。
一目惚れだった。どちらかというと小柄な部類に入る背丈のくせに、筋肉質な背中と引き締まった腰、所謂完璧な逆三角形の均整の取れた身体。ニットから浮き上がる肩甲骨は、彫刻にして部屋に飾りたいくらいだ。ティファの親友として一緒に行動させてもらう内に打ち解けて、それが今では恋人だなんて、夢でも見てるみたい。いや、これじゃ身体目当てみたいだけどそういう訳では決して無い。

「なーに?恋人の背中を熱い視線で見つめちゃって〜。隣行けばいいのに」
「いいの、ここが特等席だから」

ジェシーが呆れたように笑うけど、これだけは譲れない。ここのテーブル席、クラウドの大好きな背中を拝みたい放題なんだから。はぁ、早く抱き着きたい、なんてうっとりその後ろ姿を見つめていたら、突然クラウドが振り返ってバッチリ目が合った。

「ナマエ…」
「へ?」
「見すぎだ。穴が開く」

またかと言わんばかりに呆れ顔のクラウドに、えへへと乾いた笑いが出た。あー、バレてた。だってしょうがないじゃん。そんな色気たっぷりの背中をしてるクラウドが悪いんだから。

「はいはい、ご馳走様。続きは外でどうぞ」

ジェシーにしっしっ、と手で追い払われて、気まずそうに眉を顰めたクラウドが私の手を取ってセブンスヘブンから出ていく。引っ張られるようにそれに着いていって、私の半歩前を歩く綺麗な背中に向かって口を開く。

「クラウド、どこ行くの?」
「あんたの部屋」
「あ、うん」

ちらりと私を振り返って、あたかもそれがどうしたとばかりに答えたクラウド。そうですか。今更それを拒否するような仲じゃないし、別にいい。それに、私だって早くふたりになりたい、…なんて流石に気恥ずかしくてクラウドには言えないけど。

鍵を開けてアパートの部屋に入り込んで、狭いキッチンに立って水を飲むクラウドの背中をじっと見つめる。ムラムラ、って言ったら可笑しいかもしれないけれど、うずうずする。私にしては我慢できた方だと思う。もう抱き着いてもいいかな、いいよね。ソファから立ち上がってそっとクラウドに近付いて、背後から引き締まった腰にぎゅっと抱き着く。

「ナマエ?」

驚いたのか少しだけびくりと身体を強ばらせたクラウドに構うことなく、ぴったりとその背中に張り付いて頬擦りする。はぁ、幸せ。柔軟剤なのか、ふわりと鼻に入り込んできた清潔感のある香り。それを肺いっぱいに吸い込みながら、ぐりぐりと頬擦りをしていたら、擽ったかったのかクラウドが小さく身動ぎをした。

「おい、ナマエ…」
「んん?」
「離れてくれ」
「だめなの?」
「駄目だ」
「なんで?」
「……あんたの、…が、当たってる」

小さくボソリと呟かれた言葉に一瞬首を傾げて、赤くなったクラウドの耳にすぐその意味を理解して笑いが零れた。これだけくっついてたら仕方ないでしょ。それに、それこそ今更で、見たり触ったりしてるくせに。そういうウブなところが可愛くて好きなんだけど。

「はぁ、…笑うな。とにかく、離れてくれ」
「やだ」

即答した私に呆れたように溜息を零して、お腹に回していた腕を解かれて、くるりと私の方へ向き直ったクラウド。それにちょっとだけムッとして頬を膨らませたら、不機嫌そうな表情をしたクラウドが突然私の身体を横抱きに抱え上げた。ふわりと浮いた身体に驚いて咄嗟に首に手を回して落ちないようにしがみつく。

「わっ、えっ?あの、クラウドさーん…?」

もしかして、なんか、怒ってる?呼び掛けにも答えずにドサリと下ろされたのはベッドの上。そのまま私の上に跨って、顔の横に腕を付かれじっと見詰められる。寄せられた眉が、怒ってることを顕にしていて。理由が分からなくて狼狽えながらも目を逸らせない。

「…あんたが好きなのは、俺自身じゃないのか?」
「……え?」

突拍子もないその言葉に思わず目を丸くする。不機嫌な表情の中に見えた、悲しげに揺れる翠玉のような瞳。クラウドが好きに決まってる、のに。そう答えようとしてふと気付く。違う、不安にさせてるのは私だ。言わなくてもわかってくれてると勝手に思い込んでただけで、言葉が足りな過ぎた。ごめんね、と心の中で呟いて首に手を回して触れるだけのキスをする。

「…っ!」
「クラウドの背中が好き。いつも守ってくれるから。手も、腕も、宝石みたいな瞳も、綺麗な眉も、キスしてくれる唇も好き。私を呼んでくれる声も好き、それから───」
「っまて、もう、いい…」

慌てて言葉を遮られて、赤くなった顔ごと視線を逸らされた。それがどうしようもなく愛しくてその頬に手を添えて、もう一度目を合わせる。

「クラウドの全部が好きだよ。クラウドだから、好き」
「……っはぁ、勘弁してくれ…」

何かを堪えるようにそう吐き出して、ぎゅっと強く抱き締められる。ぴったりとくっついた胸から、クラウドの速くなった鼓動が伝わってきて思わず息を漏らして笑った。耳元で、俺もナマエの全部が好きだ、なんて最高の殺し文句が聞こえて、私の心臓まで壊れそうに煩く鳴り出して。私たちはどちらからともなく深く唇を重ねた。


(→あとがき)
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