虹色ラプソディ

久しぶりの晴天。バルコニーに出て、洋服をハンガーに掛けて物干し竿に並べていく。4人分の洗濯物は、こまめに回していても毎回どうしても大量になってしまう。

「ふぅ…」

重くてなかなか自由が利かない身体。特にこうして洗濯物を干したりする際、かがむとどうしても上半身がつっかえてしまう。ゆっくりと息をつきながら作業を進めていると、家の中からパタパタと軽快な足音が聞こえてきた。

「ママ〜!」

小さな身体が私を後ろからぎゅっと抱きしめる。身体ごと振り向いて、レノに良く似た赤い髪を撫でると、嬉しそうに長女ははにかんだ。

「おかえり、早かったね?」
「うん!パパが、ママが心配だからって」
「えぇ?ふふ、そうなの?」

日用品の買い物へ出かけていくレノたちを見送ったのはほんの1時間程前だった気がする。長女から発せられた言葉に、くすくすと笑って返す。いつからだったかな。レノが、今まで以上に心配性になったのは。愛されてるなぁ、なんて嬉しくて顔が緩んでしまう。

「余計なこと言うなよ、と。…って、おい、ナマエ。無理して動くなって言ったろ!」

そんな言葉とともに、まだ小さな長男を片腕で抱きかかえたレノが廊下から部屋に入ってきた。ママ、と伸ばされた長女よりももっと小さな手。それをきゅっと握って、微笑む。

「おかえりなさい。大丈夫だよ、少しくらい動かないと逆に後が大変だから」
「ったく、心配するこっちの見にもなれっての…」
「ふふ、心配性だなぁ」

でもレノがここまで言う理由も、ちゃんとわかってるんだ。そう、私のお腹の中には、3人目の命が宿っているから。もう安定期に入っているし、動ける時に動いたほうがいいと何度言っても、自分の目が届かない所だとどうしても心配になってしまうらしい。

「ねぇママ、遊ぼうよぉ!」
「あそぼ、あそぼっ」
「うん?何して遊ぶの?」

子供たちに両腕を引かれて、中腰になって首を傾げる。そんな時、突然横から伸びてきた腕に肩を抱き寄せられた。

「わ、レノ?」
「ダーメ。ナマエは俺と遊ぶんだよなァ?」
「えっ…?」

にやりと口角を上げたレノらしい表情に目を丸くする。レノが言うと、なんだか違う意味に聞こえてしまうのは私だけだろうか。

「えー!パパずるい〜!」
「ずるいぃ!」
「っふは、残念だったな、と」

子供相手に張り合うレノと、ムキになってレノにしがみつく子供たちを笑って眺めるこんな日常が、本当に幸せで何よりもかけがえのないものだと、何度も感じさせられる。楽しいことばかりじゃなかったし、涙が枯れてしまうほど泣いた夜もあった。それでも、今ここにレノがいて、可愛い子供たちがいて、お腹の中には新しい命がある。本当に、私は幸せ者だ。

「よし、じゃあみんなで、…あれ?」

騒ぐ三人の仲介に入るように口を開いた途端、ベルが鳴り響いて来客を告げた。レノと顔を見合わせて、玄関に向かう。その後ろからトコトコとついてくる子供たち。

「誰だよ、非番だっつーのに…。あ?」

悪態を付きながらレノが扉を開けた先、そこに立っていたのはまさかの人物で。レノの足の横からちらりと顔を出した子供たちが、その人を視界に捉えてぱっと顔を輝かせた。

「あっ、ルードだぁ!」
「るーど!」
「ふ……。相変わらず元気だな」

サングラスを指先で押し上げながら小さく笑ったルードさんに、子供たちがすかさず飛びつく。そう、この子たちはルードさんが大好きなんだ。でも、どうしてここにルードさんが。レノも同じことを考えていたようで、不機嫌そうに眉を寄せる。

「なんだよ、ルード。仕事ならしねーぞ、と」
「子供たちを預かろうと思ってな。…たまには夫婦水入らずで過ごしてもいいんじゃないのか」
「えっ?そんな、悪いですよ、ルードさん!」

思ってもみない申し出に、さすがにそんなことは頼めないと首を振る。隣のレノは単純にも嬉しそうに、まじで、なんて答えたけれど。

「ルードと遊ぶ!」
「あそぶー!」
「ってコトだし、ここは甘えとこーぜ?お前もたまにはゆっくり休めよ、ナマエ」
「えぇ…?」
「遠くには連れて行かない。安心してくれ」

結局完全にルードさんと遊ぶ気になってしまった子供たちと、レノとルードさんに言い包められて、申し訳なさを感じつつその言葉に甘えることにさせてもらった。嬉しそうに手を振って家を出て行く子供たちを見送って、扉が閉まると同時にレノが私の腕を取って歩き出す。そのまま優しく連れられた先は、リビングのソファで、大人しくゆっくりと腰を下ろしたらレノも同じように隣に腰掛けた。

「なーんか久しぶりだな。ナマエと二人っきりの家」
「そうだね、いつも賑やかだから」
「はは。…あー、違うな。今も、こいつがいるか」

そう言って、綺麗なエメラルドの瞳に長い睫がかかって、慈しむようにそっとお腹に添えられた大きな手。昔、レノはその手を汚れていると言っていたけれど、レノの手はいつも綺麗で優しい。無性にレノへの愛しさが溢れて、私はレノに腕を伸ばしてぎゅっと抱きついた。お腹の子を気遣ってか、背中に緩く添えられた手が嬉しい。

「ん?どーした?」
「大好きだなって」
「っふは、なんだよ、いきなり。…あんま可愛いこと言うなっての」

可笑しそうに笑うレノを見上げたら、エメラルドの瞳が細められて、触れるだけの口付けが降ってくる。なんだかんだ、久しぶりのレノとの時間に私も浮かれてしまっているらしい。子供たちと家族揃って過ごす時間は勿論大好きだけれど、こうしてレノにぴったりくっついていられる時間はそうそうないから。

「あの子たちが帰ってくるまで、もう少しこうしてたいな…」
「…生殺しだけどな」
「何か言った?」
「いや、なんも?…こいつが元気に生まれたら、4人目も考えないとなァ?ナマエ」

しれっと言い放ったレノにぎょっと目を見開く。半分冗談だぞ、と。なんてにやりと笑ったレノに、私はまた笑って厚い胸板に顔を埋めた。
きっとこれからも、一緒に笑って、泣いて、手を取り合って、そうやって日々は続いていくんだろう。願わくは、灰色のこの街で、かけがえのない虹色の日々を。


(→あとがき)
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