20
扉が開かれるのがスローモーションに見えて、気怠げに覗いた赤い髪とエメラルドの瞳。私を視界に捉えた途端に大きく見開かれたそれに、酷く感情を揺さぶられた。会いたくて、声が聞きたくて、一秒だって忘れられなかった人。

「──ナマエ、おまえ、なんで…」
「レノさん、やっと、会えた」
「こんなとこまで来てんじゃねえよ…」
「来ますよ。だってレノさんの、傍にいたいから」

苦しそうに歪められた顔に、この人は今まで全部ひとりで抱え込んで来たんだと、私まで悲しくなる。

「だから、おまえのそれは勘違いだって、」
「レノさん」

手を伸ばして、レノさんの両頬に手を添える。驚いたように見開かれるエメラルド色をじっと見つめて、その言葉を遮った。

「好きです」
「ナマエ…」
「過去は変えられなくても、未来は変えられます。変えようとしてるから、苦しいんですよね。償うことは過去の為じゃなく、未来の為にすることですから」
「…ふは、未来なんて明るいもん、考えたこともねえよ、と」
「じゃあ一緒に考えましょう?これから先、もしレノさんが間違えたら、私が殴ってでも止めます。私が間違えたら、レノさんが殴って止めてください」
「殴ってって、おまえな…」

眉を下げて困ったように笑うレノさんに、私も微笑んで返す。

「もうレノさんをひとりにはしません」
「………っ、」
「ひとりで全部抱えないで下さい」

そう伝えた瞬間に、エメラルドの瞳から涙が一粒零れた。初めて見る、レノさんの涙。それが綺麗すぎて、胸が締め付けられて、私まで釣られて視界が滲んだ。隠すのが上手なレノさんの本当の顔。愛しくて、私は背伸びして触れるだけのキスをした。その瞬間に、身体がぎゅっと抱き締められた。レノさんの心臓の音がすぐ近くで聞こえて、苦しいくらい力強く回された腕に私まで鼓動が速くなる。広い背中に腕を回して、胸に顔を埋めたら、レノさんは小さく息を吐いた。

「…ほんとに、ナマエには敵わねえなァ」
「ふふ、なんですか、それ」
「もう離してやれねーぞ、と」
「私の台詞ですよ」
「好きだ、ナマエ。泣かせて、ごめんな」

顎に手を添えられて、上を向いたら優しく唇が重ねられた。何度も角度を変えて、触れるだけの優しいキスが落とされる。

「なァ、レノって呼べよ」
「っん、…レ、ノ…」
「かわい、」

細められた瞳に見つめられて、深くなる口付け。愛しいと言われているみたいで、それが嬉しくて、また涙が零れた。レノに出会って、沢山の優しさを貰って、苦しみを知って、傷付け合って。でも、やっとここまで来れた。

「離れた方がいいなんて自分に言い聞かせて、でもナマエが追っかけて来てくれること、ほんとは待ってたのかもな」

待っててくれてありがとう、そう伝えて、また胸に顔を埋めて。レノは優しく微笑んで、私を抱き締めたまま言った。

「未来の話、するか」
「っうん───」


この灰色の街はいつも変わらないけれど、いつも変わる。あなたと生きるこの灰色の街が、私はやっぱり大好きだ。

fin.

→あとがき
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