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ジャケットすら脱ぐことも億劫で、スーツのままベッドへと身を沈める。腕を目元にあてて、深い溜息を吐いた。くそ、何してんだ、俺。続きを言わせないように無理矢理キスして、挙句に泣かせて。大きな瞳から涙を流すナマエを抱き締めてやりたくて堪らなかった。でもごめんな、俺には無理だ。勘違いしてんだよ、おまえ。近くにいたのがたまたま俺だったってだけの話だ。タークスが、俺が、どんなことしてきたのかわかってんのかよ。おまえが大事にしてたミッドガルの孤児院、俺らが壊したも同然なんだぞ?

「…くそ、」

ひとり陰鬱になりながら、スーツのポケットから携帯を取り出して耳元に当てる。数回のコール音の後、珍しくそいつは電話に出やがった。

『…何の用だ』
「俺さァ、おまえのこと嫌いだわ」
『……奇遇だな、俺もだ。切るぞ』
「ふは、待てって」

せっかちな男は嫌われんだぞ、と。あー、まあ、俺ももう嫌われたか、あいつに。ぐしゃりと前髪をかきあげる。タークスのプライドも全部殴り捨てて、電話の向こうにいるクラウドに口を開いた。

「ナマエのこと、頼むわ」
『…は?』
「悪い、泣かせた。今すぐ行ってやってくんねえ?」
『っ、何かしたのか、あんた…!』
「してねえって」

あ、キスはしたけどな。面倒だから言わねーけど。

『…なんで、俺に?』
「さァな。…泣かせんなよ」
『はぁ…。泣かせたあんたには言われたくない』
「ハイハイ、言い返す言葉もねーよ。じゃな」

プツ、と終了ボタンを押して携帯を適当に放り投げる。嫌いだよ、おまえのこと。でもこの星を救って俺らの愚行を止めたのは、おまえだろ、クラウド。おまえになら、ナマエを任せられるんじゃねーかって、なんでか知らねえけど思ったんだ。この俺が頭下げたんだぞ、だから頼むわ、クラウド。
白い天井を見上げて自嘲する。今までの俺だったら、欲しいもんは奪ってでも手に入れてたのにな。俺といてナマエを傷付けるくらいなら、離れた方がマシだと思うくらいには、ナマエが大事だ。ああ、でもあれが最後なら、もっとキスしとけばよかったわ。

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レノからの電話を切った後、しばらく俺は動けずにいた。泣かせただの、頼むだの、随分と自分勝手に、まるで自分のモノのように言い放ったレノに苛立ちが募る。あの日からナマエには会いに行けずにいた。傍から見て、ナマエがレノに特別な感情を抱いていることは一目瞭然だった。向けられた先が俺じゃないことに柄にもなく落ち込んでいたのかもしれない。いつまでもぐだぐだと悩んでいるわけにもいかないかと重い腰を上げて、俺はナマエの家へと向かった。

「…ナマエ、いるのか?」

扉を軽くノックして中からの返事を待ったが、いつまで経っても無反応のそれに、いないのかとなんとなくドアノブを捻るとガチャリと開く扉。鍵もかけてないのか。漏れる光から、中にナマエがいるのは明らかで、悪いとは思いつつ中へ上がらせてもらう。

「ナマエ、」
「…クラウド、さん…」

リビングへ続く扉を開いた先、床に座り込んで静かに涙を流すナマエが目に入って、胸が締め付けられた。なぁ、あんたのその涙は、レノに向けられたものなんだろ。モヤモヤと黒い物が腹の中に溜まって、その涙を止めてやりたくて、思うより早く身体が動いていた。腕の中にナマエを閉じ込めて、後頭部に添えた手で頭を撫でる。

「!…、っ」
「俺しか見てない」
「…っふ、ぅ…」

今、あんたの中にいるのは俺じゃない。今はそれでもいい。でも、もう"いい奴"でいるのはやめる。俺はあんたを泣かせない。だから、俺を見てくれ、ナマエ。
顎に手を添えて、上を向かせて真っ赤な目を見つめる。未だに頬を伝う涙をぺろりと舐めとったら、ナマエは目を見開いた。それに構わず、目尻にも口付けを落とす。驚いたように揺れる瞳に映っているのが俺だという事実に、どうしようもなく嬉しくなる。

「っ、あ、え?」
「ふ、…涙、止まったな」
「…クラウドさん、?」
「クラウドだ」

さん付けすら気に入らないなんて、自分の独占欲の強さには呆れる。ナマエ、俺じゃあんたの特別にはなれないのか?レノより先に出会っていたら、俺を見てくれたのか?

「く、クラウド…」

おずおずと呼ばれた名前にドクンと心臓が音を立てた。俺の腕の中のナマエが愛しくて仕方がない。これを言ったら、あんたを困らせるだけなのはわかってる。ただ、悪い、もう、なりふり構ってられない。どうか伝わって欲しいと願いながら、俺はナマエに囁いた。

「ナマエ、あんたが好きだ──」
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