to the moon and back



夜は好きじゃない。夜になるといつも、自責の念で押しつぶされそうになるから。起きたくも無いのに覚めた目を擦って、ベッドから身体を起こす。

「……まただ、」

同じ悪夢に起こされるのは何度目か。でもこうなると暫く寝付けないのは、もう分かっている。私の気配に身をよじる彼の髪を撫でて、私はそっとベッドを抜け出した。
バルコニーに出て見上げるのは、秋の澄んだ空に浮かぶ月。眠れない夜は、いつもこうして月を眺める。……ただ、この夜はいつもと少し違った。

「……ナマエ…?」
「クラウド。ごめんなさい。起こした?」
「いいや、俺もたまたま目が覚めた。」

私の背中にかかった声が、そのまま隣に落ち着く。月明かりに照らされたその髪が、少し寒くなった空気に揺れた。
ふと、彼と出会った頃を思い出す。あの頃と比べると、任務をまかされてからわざと変えた話し方もすっかり板についた。むしろ、今となってはこっちの方が楽でさえある。あの時は嘘ついてばかりだったな、なんて心の中で浮かぶ苦笑い。

「いつも、月を見てたのか」
「いつも?」
「ナマエが夜中に目を覚ますの、今日が初めてじゃないだろ。」

クラウドの言葉に、今度は本当に苦笑いした。

「なんだ、バレてたんだ。」
「あの時みたいに俺が騙されたままだと思ったら大間違いだ。」

まるでかつての私を責めているような言葉なのに、その声は柔く、甘い。彼は部屋から持ってきていた毛布を肩にかけて、包むように私を後ろから抱きしめた。そのまま頬を撫でられて、そっと唇が重なる。

「ん……あったかい。」
「どっちが?」
「どっちも。」

彼の熱と優しさに、見る見る溶けていく心の棘。彼に触れたくなって、前に回されたそのしなやかな指に私のそれを重ねた。

「最近、よく夢を見るの。」

私を起こす悪夢。クラウドに話すことなんて無いと思っていたのに、気付けば口から零れた。タークスなのに、こんな口が軽かったらことだな。なんて過去の自分に思いを馳せる。
彼は私の髪に唇を寄せて、月を見つめたまま静かに聞いていた。

「クラウドが私に言うの、裏切り者って。」
「ナマエ……」
「クラウドは優しいから、そんなこと言わないのにね。」

少し笑って振り返った彼の顔は、一方で険しいものだった。なにか、怒らせるような事を言っただろうか。戸惑う私に、彼がついにふっと笑う。

「そんな怯えた顔をしなくても、怒ってない。」
「私、怯えてた?」
「ああ。あんたはいつも怯えてる。」

彼の手が、そっと私の頬を撫でた。少し骨ばったその指が心地良い。

「俺やみんなが、いつかナマエを見限るんじゃないか。本当は許してなんていないんじゃないかって。」

彼の言葉に、私は目を見開いた。そうなのかも、しれない。

「……責められても、仕方ないと思うから。」

俯く私の髪に、彼が口付ける。そして、彼のエメラルドの瞳はそっと月の方を向いた。

「二度と手離さないと、誓ったんだ。神羅ビルであんたと会った時に。」
「……うん。」
「そう簡単には、逃げたくなっても逃がしてやるつもりは無い。」
「……うん。」

そっと彼が私の身体を振り向かせて、私たちは向かい合う形になる。そのまま腰を引き寄せられて、私たちは深く口付けた。
まるでパズルのピースがはまるみたいに、磁石と磁石がくっつくように、ぴったりと隙間が埋まる。このまま溶けて、ひとつになってしまえばいいのに。なんて、我ながら幼稚な考えだ。
ゆっくりと唇が離れて、そっと視線が交わった。月に反射して輝く彼の髪が眩しい。あの時の彼よりも甘い表情で、クラウドは私に笑った。

「もう、大丈夫そうだな。」
「うん、クラウドは、私を離してくれないみたいだから。」
「ああ、あんたが俺を殺そうとしても、離してやれる自信が無い。」

壊れ物を扱うみたいに優しく、でも強く、彼が私を抱きしめる。そのまま月を見上げた彼が、小さく耳元でわらって呟いた。

「今夜は、月が綺麗だな。」

彼のその言葉に、私もまた笑う。そのまま彼の首に腕を回した。髪を撫でて、その耳元に唇をよせる。

「死んでもいいわ。」

訂正、夜は好きだ。夜になるといつも、彼が私を迎えに来てくれるから。


2020.09.17 LST-3HZ様より
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