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「おまえは──」
「マダム・マムとアニヤン・クーニャンの推薦状を持ってるの。入れてくれる?」
「正気か?」
「正気だし本気。いいよね?」

屋敷の中ではやっぱりレズリーと取り巻きが待っていた。訝しげな表情を浮かべたレズリーを真っ直ぐ見つめて聞く。

「どうなっても知らないぞ」
「ご心配なく」
「……いいだろう、入れ」

にっこり笑ったエアリスに眉を顰めて、レズリーは渋々後ろの扉を開けてくれた。最初から思っていたけれど、この人は意外と私たちの身を案じてくれていたのかもしれない。コルネオの手下という立場なら、ここまで引き留める必要はなかったはずだから。

「ありがと、レズリー。せめて巻き込まないようにするから」
「…ふん」

それだけレズリーに言い残すと、レズリーは目を逸らして鼻を鳴らした。扉の先にいたコルネオの手下から、オーディション開始までの控え室を案内され、入った部屋は薄暗い物置のようだった。どう見ても控え室には見えないけれど、と思ったところで扉が大きな音を立てて閉まった。

「…この甘い香り、なに?」
「え…?」

エアリスが呟いて、私も鼻から息を吸いこんでみる。何かの蜜のような甘い香りが確かにする。クラウドと目が合って、お互いにはっと気付く。咄嗟に着物の袖で口と鼻を抑える。

「ガスだ!一度出るぞ」

クラウドが扉を押すけれど、それはびくともしない。まずい、閉じ込められた?その時エアリスが膝から崩れ落ちるのが見えて、慌ててその元に駆け寄る。

「エアリス!」
「ナマエ……ぼーっとし、て…」

空いている左手の袖をエアリスに当てがおうとして、左手が上手く上がらないことに気付く。だめだ、私もガスがまわって…。

「……っはぁ、」
「ナマエ!エアリス、っく……」

クラウドも状況は同じだった。床に手をついて肩で息をしている。だめ、意識が…。そのまま私は床に倒れ込むように、真っ暗な闇に引きずり込まれた。

「──ナマエ、…ナマエ!」
「ん……?っティファ!?怪我は!?」

誰かが私を呼ぶ声が聞こえて、そっと目を開ける。目の前にあったのは、心配そうに眉を下げるティファの顔。飛び起きて、ティファの手を取って、特に怪我もないようで安心した。

「ナマエ、どうしてここに?」
「それは…」
「う、…」

事情を説明しようとした時に、近くで倒れていたらしいクラウドが丁度目を覚まして、ティファが駆け寄って顔を覗き込んだ。

「大丈夫、ですか…?」
「っ!!」
「きゃっ」

突然、私と同じように飛び起きたクラウドに、ティファが驚いて小さく悲鳴を上げる。何だろう、ティファの反応に少し違和感を覚える。どこか他人行儀というか。もしかして、クラウドだって気付いてない?

「ティファ!」
「…はい?」
「無事か?」
「……うん」
「そうか…」
「えーっと………」

やっぱりティファはクラウドだと気付いていない様子で、困惑したように首を傾げてる。まぁ、まさかクラウドが女の子の格好してるなんて思わないか…。なんだか、シュールで面白い光景に吹き出しそうになる。

「…もしかして……クラウド!?お化粧してる?その格好!」
「感想はいらない他に方法が無かった」
「っあはは、かわいい、クラウド」
「おい笑うな、…って、ナマエ…。よかった、無事だったんだな」
「うん、ただの催眠ガスだったみたいだね」

私の顔を見て、ほっと顔を緩ませたクラウドに、心配してくれたのかと少し嬉しくなる。ふとエアリスは、と辺りを見渡すと、私の後ろに倒れているのに気付いてすぐ声を掛ける。

「エアリス、大丈夫?」
「…うぅ、……ナマエ、うん、ちょっとフラフラするけど平気」

立ち上がるエアリスに手を貸すと、そのままエアリスはティファの元に駆け寄った。
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