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「ナマエ!どこ、いってたの?」
「ごめんね、急にいなくなって。クラウドと合流したら話す。ちょっと気になる事あるから」
「うん、じゃあクラウド待ちだね。ナマエ、ショーすごかったんだよ?」
「…見そびれた、最悪……」
タークスのせいで、せっかくの楽しい時間が台無しだ。そういえば、クラウドどうなったんだろ。アニヤンから推薦状はもらえたのかな。
「それで、クラウドは?」
「多分、もうすぐ出てくるとおもうよ」
蜜蜂の館から出て、外で様子を伺う。ショー終わりということもあり、続々と人が館から出てくる。クラウドは…遅いな。
「……ん?」
人の流れの、一番最後に出てきた人を見て首を傾げる。紫色のAラインのロングドレスに身を包んだ、ちょっとガタイのいい女の人。ツンツン頭に……おさげ?
「クラウド、すごいステージだったね!」
エアリスがその人に駆け寄って声を掛けるけど、その人は無反応でスタスタ歩いていってしまう。エアリス、今クラウドって言った?
「まさか、クラウド?」
「クラウド〜?」
「………」
クラウドらしいその人に何度も声を掛けるけど、全部スルー。どこに向かってるのかわからないけれど、後ろ姿しか見えなくてもどかしい。
「ねぇ、クラウド」
突然立ち止まって、私たちに背を向けたまま動かなくなってしまったクラウドを、回り込んで顔を覗き込んで、私は目を見開いた。
「え……かわいい…」
「……やめてくれ」
元々綺麗な顔をしているから、お化粧したら違和感ないんじゃないかとは思ってたけど、これは想像以上だ。長い睫毛に、淡いピンクのリップとチーク。普通に、そこら辺の女の子より可愛いんだけど。
「えぇ………」
「……おい。その顔やめろ」
クラウドが思いっ切り眉を寄せて睨む。多分、口をぽかんと開けてたからそのことだと思うけど。いやだってしょうがないじゃん。可愛いんだもん、女として自信なくすくらい。
「何も言うな」
「ひとことだけ」
「ダメだ」
「かわいい〜!」
「かわいい…ずるい…」
エアリスとクラウドのやり取りを聞きながら、思わず私も呟く。クラウド、その目やめて。変なものを見る目で見ないで。
「……はぁ。さっさと屋敷に戻るぞ」
「エアリス、私ちょっと自信なくした」
「うん、わたしも」
また先を歩き出してしまったクラウドの後ろ姿を見ながらエアリスと慰め合う。大丈夫、エアリスもすごく可愛いよ、なんて口説き文句のような台詞を言ったら、エアリスは照れたようにはにかんだ。振り返ったクラウドに物凄く訝しげな顔をされたから、急いで後を追う。歩き方までちゃんとお淑やかになってるの面白いな、なんて心の中で笑いながら。
「ナマエ、そういえば、さっき何があったの?」
エアリスの言葉で、はっと思い出す。そうだ、2人にはさっきのことを話しておかないといけない。少し先を歩くクラウドを呼び止めて、2人に向き直る。
「あのね、…さっき、タークスに会った」
「っ!?何かされたのか!?」
突然血相を変えて私の両肩を掴んだクラウドに驚きながらも、首を振る。
「ううん、何もされてない。ただ、コルネオ関係での仕事だって言ってた…」
「…そうか」
「………」
「エアリス?」
何も話さないエアリスが気になって、声を掛ける。何か考えこんでいるのか、心ここに在らずで下を向いている。その顔を覗き込んで、目の前で手をひらひらと振ってみる。
「…っあ!ううん、ごめん、なんでもないの」
「…そう?」
はっとしたように一瞬目を丸くして、でも次の瞬間にはいつものように微笑んだエアリスに少し気には留めつつもそれ以上追求はしないことにした。
「これは憶測なんだけど…もしかしたら、コルネオの裏で何か大きなものが動いているのかも」
「大きなもの?」
「それが何かはわからない。けど、タークスが動いてるって、やっぱりおかしい」
「…そうだな、用心しよう」
「うん、そうだね」
ここでとやかく考えていても仕方ない。そんな思いは一緒だったようで、2人は私の目を見て頷いた。それに、今はティファを助けることが最優先。私たちは、再びコルネオの屋敷に足を進めた。