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「いらっしゃいませぇ。3名ですね?どうぞこちらに」

出迎えてくれたのは、妙に色気たっぷりな声に肌蹴た着物を身につけた女性。多分この人がマダム・マムなんだろう。

「本日はどういった揉みにいたしましょ?」
「揉み?」
「あら、ご新規さんでしたか。うちは手揉み屋っていいましてね、人間疲れてるとロクに金勘定もできやしないでしょう?そんなお客様の疲れを、"もみもみ"と…手と手の濃厚なスキンシップで解消させていただきます」

口調といい、手の動きといい、なんだかいかがわしいお店に入ってしまったんじゃないかと錯覚する。

「俺たちは客じゃない」
「…と、いいますと?」
「わたしたちを、コルネオさんのオーディションに推薦してもらい──」
「待った待ったちょっと黙りな勝手に口開くんじゃないよ!」
「!?」

エアリスが要件を言い終わる前に割り込んできたマムが、息継ぎもせずにドスのきいた声でそう捲し立てて私たちは目を丸くした。やっぱり、代理人ってやばい人ばっかなんじゃん…なんて心の中で呟きながら。

「はぁ…ったくまた変なの来たわぁ…。ちょっとばかし若いからって、何でも許されるとでも思ってるのかね。で、なんだって?頼み?あのねアンタたち、うちは手揉み屋。揉んでなんぼの店なの。客としてきたわけじゃないだあ?……てめぇら!頼み事があるならまず客として揉まれるのが筋じゃねぇのか?ああん?」

私たちの顔を見回しながら矢継ぎ早に捲し立てるマムに、唖然としてしまって口を挟むことすら出来ない。こわ、なにこの人。え、やばい稼業の人じゃないよね?なんて思ってたら、何を思ったのか持っていた扇子でクラウドの顎を上げさせたマム。そのまま目を細めて、クラウドを顔を見つめる。

「あんた、名前は」
「……クラウド・ストライフ」
「手を出しな」
「…え?」
「早くしな!」

クラウドがおずおずと差し出した手を取って、マムは確かめるように押したり撫でたりし出した。

「戦う男の力強い、それでいてしなやかな手。…いいわ、クラウド。あんたが誠意を見せなさい。話はそれから」

そう言ってマムはカウンターへ戻ると、コースのメニュー表を差し出した。極上…3000ギル!?たっか!

「…極上で」
「ふふ、じゃあ奥の部屋までいらっしゃい」

一呼吸置いて、でも迷わずそう答えたクラウドにエアリスと顔を見合わせて、まぁいいかと奥へ入っていくクラウドを見送る。

「ね、エアリス…。ここ、いかがわしいお店?」
「うーん、だいじょうぶだと、思うけど」
「とりあえず、待ってよっか」

クラウドを待つ間、エアリスと取り留めもない会話をしながら時間を潰す。と、奥の部屋から、聞いたことのないクラウドの声が聞こえてきて、エアリスと目を丸くする。

「…え」
「いまの、クラウド?」
「……たぶん?」

それから間もなくして、何故かふらふらと奥からクラウドが戻ってきた。明らかに様子がおかしいクラウドに、エアリスと顔を見合わせる。

「だいじょうぶ?」
「…………ん?」
「クラウド、へんだよ?」
「………そうか?」

エアリスの呼びかけに心ここに在らずで返事をして、壁に寄りかかるクラウド。私はなんとなく悪戯心が芽生えてきて、そっとクラウドに近付いた。背伸びしてクラウドの耳元に近づいて、息を吹きかける。

「…っあ、──っナマエ!?」
「え!?」

その瞬間に小さくクラウドが艶めかしい吐息を漏らしたから、悪戯した私の方が驚いた。何、いまの声。クラウド顔真っ赤だし、なんかつられて私も赤い気がするし!

「ふふ…クセになりそうかい?」

奥からマムも戻ってきて、そんな妖しいことを聞く。いや、ほんとに何されたのクラウド…。

「さてと、誠意はしかと見せてもらったよ。頼みってやつを聞こうじゃないか」

耳を抑えたまま、まだ放心状態のクラウドを放っておいて、私とエアリスはマムに向き合った。

「わたしたちを、コルネオさんのオーディションに推薦してほしいんです」
「そりゃ随分と物好きだね。…ふーん、まぁいいだろう」
「ほんと?」
「ただし、その格好じゃ駄目だよ。そんな貧乏くさい格好した女を連れてったとあっちゃあ、代理人としての信用にキズがついちまうからね」
「……この服、ダメ?」

私の腕をとって、エアリスはクラウドにそう聴く。それを見て眉を寄せたクラウドが、私とエアリスをちらりとみて、小さく溜息をついた。

「言わせておけ」
「もうちょっと、フォローとかさぁ…」
「気に入ってるのに…」

確かに私の格好は適当すぎるくらいかもしれないけど、エアリスに関しては普通に似合ってるし可愛いと思うんだけど。気の利かない男だな、ほんとに。
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