20
何となく、ベッドサイドの写真立てをそっと伏せる。別に見られて困るものじゃないけれど、なんとなくそうした方がいい気がした。ふとあまりにも静かなクラウドに違和感を覚えて振り返って、さすがに吹き出してしまった。

「っあはは!クラウド、いつまでそこに立ってるの」

無駄に格好つけて腕組みをしたまま、入口近くの壁にもたれかかってるクラウドに笑いながら声を掛ける。

「…ここでいい」
「あ、わかった。女の子の部屋、入ったことないんだ?」
「なっ!…別にそれがなんだ、興味ない」
「あはは、うそうそ冗談。話、あったんじゃないの?気にしないでこっち、座って」
「……はぁ」

まぁ、座るとこといえば床かベッドしかないんだけど。大きい溜息を吐いたクラウドの手を引いて、ベッドに近づいた時だった。

「…う、わわっ!?」
「っおい、!」

解けていたブーツの靴紐を気付かないまま踏んづけて、ぐらりと傾く視界。あ、やばい転ぶ、と思って、次にくるであろう痛みに身体を硬くした。けれど、受けた衝撃は倒れた場所がベッドの上だったのか思いの外小さいものだった。
そっと目を開いて、驚愕する。目の前にあったのは、至近距離の端正な顔。

「…え、」
「…」

何が起きているのか混乱する頭で視線だけを動かす。顔のすぐ横に置かれたクラウドの右手と、ベッドと腰の間にはクラウドの左腕。どうやら抱き締められるような体勢でベッドに一緒に倒れ込んでしまったらしい。でも、それはもう仕方がないとして、クラウドは私の上から一向にどく気配がないのは一体…?
私をじっと見つめて離さない魔晄の瞳。至近距離すぎて、その瞳の中には狼狽える私の顔が映ってる。ドキドキと心臓が煩い。顔に熱が集まって、絶対に今、顔が真っ赤になってる自信がある。

「く、らうど…」

やっとのことで呼んだ名前は、恥ずかしいくらいに弱々しく掠れていた。揶揄ったこと、怒ってる?とか、いつもの調子で聴こうと思っても、上手く声が出ない。
───どうして。どうして、そんなに真剣な目で見るの。どうして、何も言わないの。

「ナマエ…」

見つめられたまま、クラウドの綺麗な形の唇が動いて、呼ばれた名前。その瞬間にまた大きく高鳴る鼓動。クラウドらしくないよ。そんな優しい、大切な人でも呼ぶような声、初めて聞いた。

「……ふ、悪い。怪我はないか」

突然、眉尻を下げて苦笑するように息を吐き出したクラウドが、そう言いながら立ち上がった。離れていった温もりに、ほっと安堵するのと同時に、何故だか一瞬寂しいと思ってしまって、咄嗟に頭を振る。

「う、うん…ごめん、平気…」
「ジェシーから依頼を受けた。あんたにも来てもらいたい」
「え、あ、うん。…わかった」

さっきまでの変な空気はもうなくて。そう淡々と話すクラウドもいつものクラウドだった。

「準備ができたら駅に来てくれ」
「…うん」

それだけ言うと、クラウドは何事も無かったかのように扉を開けて、出ていってしまった。

「………いや、なんだったの、もう…」

ひとりになった部屋で、頭を抱える。まだ、顔が熱い気がする。手を握っただけでびっくりしたり、部屋に入るのにも躊躇したり、ほんとにそういうの耐性ない感じだったじゃん…。でも、さっきのクラウドはまるで別人で、回された腕も見つめる瞳も、男の人のそれだった。そんなの、どきどきするなっていう方が無理に決まってる……。
はぁ、と深い溜息が思わず出て、とりあえず頭を切り替えるために冷水で顔を洗う。よし、行こう、と扉に手を掛けて思い出す。

「…あ。依頼の内容聞くの、忘れてた」

…はは、私相当テンパってたらしい。
prev | next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -