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「さすがに堪えたな…」
「ここに来てから連戦だからね…お疲れ様、みんな」
「うん、おつかれさま」
どさりと床に座り込んだバレットに対して、私は両腕を上げてぐっと背伸びをした。背骨がパキパキと音を立てて、身体の疲れを感じる。
「…休むのはまだ早いぞ。クラウドたちは無事なんだろう?」
「あったりまえだ!」
「ならば退路を確保しておかなければ」
冷静な表情でそう言ったレッドに、バレットは重い腰を上げた。私とエアリスもそれに頷いて、ビルのエントランスへ向かった。
意外にも人ひとりいない静まり返ったエントランスホールに、逆に不信感が沸いてしまうのは疑いすぎなんだろうか。ただホールの階段を降りた途端に聞こえてきた複数の足音に、やっぱり疑って正解だと内心悪態をついた。
「はぁ……。しつこいなぁ、ほんと」
「…くそっ」
あっという間に神羅兵に取り囲まれる私たちと、兵士を掻き分けて現れた人物に盛大な溜息が零れた。
「包囲、完了しました!」
「よし、よくやった!まあ俺にかかればこんなものだな」
下品な笑い声を上げながら立ちはだかったハイデッカーは、私たちをぐるりと見渡して眉を寄せた。
「しかし、なんだ貴様らは。どういう組み合わせだ?」
「アバランチ!」
「スラムの花売り!」
「…実験サンプル」
「…レプ、」
「貴様は知っている、"レプリカ"」
「……言わせてよ」
言葉を遮られて何だか腹が立つ。まあ、プレートの件と言い、私を捕らえるよう最終的な指示をしたのはこいつだから当然なのかもしれないけれど。
「古代種の女と"レプリカ"は捕らえろ。あとは殺しても構わん」
そう言い放ったハイデッカーに、周囲を取り囲んでいた兵士が一斉に銃口を向けて、ダガーの柄を強く握りしめた瞬間だった。
どこかから聞こえてきたバイクのモーター音。それから一瞬で、ドリフトをしながら兵士を轢き倒したのは、やっぱりクラウドだった。
「クラウド!」
エアリスが嬉しそうにそう呼んで、それをきっかけにバレットが兵士をガトリングガンで撃ち抜いていく。私も兵士の背後に周りながら、ダガーで急所を外して斬り付ける。
「ナマエ!」
「…っうん!」
ぐるりとホール内の兵士をバイクで一蹴したクラウドが、私の名前を呼んで手を伸ばした。瞬時に理解して、私はその手を掴んでバイクの後ろに飛び乗った。丁度その時にティファが運転する荷台付きの車が入ってきて、バレットたちはそれに乗り込むのが見える。バイクは階段をかけ登ってショールームに抜け、そこでクラウドはバスターソードを巨大なガラス窓に向かって投げた。ガラスに大きなヒビを入れたクラウドに、私はまさかと目を見開く。
「えっ、クラウド…まさか?」
「そのまさかだ。ちゃんと掴まってろよ、ナマエ!」
そう言うや否や、バイクのハンドルを握ってアクセルを最大で蒸かし、バイクは猛スピードでガラスを派手に突き破った。ぎゅっとクラウドのお腹に手を回して振り落とされないようにしがみつく。
身体がふわりと嫌な浮遊感を感じたのは一瞬だった。すぐ下がハイウェイになっていて、がくんという衝撃と共に道路に着地したバイクはそのままスピードを落とさずに走り出した。後ろからちゃんとティファたちが着いていることを確認して、やっと一息つけた。
「ナマエ、怪我はしてないか?」
「平気だよ。さっきは、クラウドがヒーローに見えた」
「…なんだそれ」
「あはは、びっくりするくらい格好良かったから」
思ったことをそのまま口に出したら、ほんの少しクラウドの耳が赤くなっていて思わず笑ってしまった。でも、本当に格好良かったんだもん。お腹に回した腕に少しだけ力を込めたら、クラウドが小さく笑った気がした。