▼ 抱愛
彼女を見て、愛しいと思った。
長い黒髪が頬にかかると、それを耳に掛ける。
そんな仕草に女性らしさを感じる。
笑うと口許に浮かぶえくぼが少女らしくて好い。
「中禅寺くん」
「どうかしたかい、名前さん」
「私ね、中禅寺くんが好きみたい。」
ふーんと言えば、背後から抱き付かれる。
「素っ気ないよ、中禅寺くん。」
「いつもの事さ」
「花も恥じらう乙女が愛の告白をしたのよ?」
「一日に最低でも15回は言われてる。」
「少ないわよ15回なんて」
ふふっと彼女は笑うと首に回した手に力を込められる。
「血管が浮き出てるよ」
「苦しいからね」
へえーと言って、彼女は私の頸もとに唇を寄せる。
「良い匂いがする」
新しい本の匂い?と首を傾げて彼女は聞く。
「本の匂いがするとは、嬉しくないよ。」
「良い匂いよ」
良いのかい?
良いのよ。
笑ったために口許にえくぼが浮かんだ。
黙っていれば可愛らしいのに。
「中禅寺くん」
背後から抱きしめていた手を解いて、名前は真っ正面に座る。
黒目がちな目と合う。
「お願いだから、私の事」
抱愛
(抱いてくださいません?)
学校の規則と僕の理性がなければ、幾度でも。
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