京極堂 | ナノ


▼ はこの中

美しい少女は匣に入って尚、その美しさを留めておかねばならぬ。
いや、匣に入ってこそ完璧な美は生まれるのだ。
みっしりと空気が通る隙間なく、詰まってこそが美しさを際立てさせるのだろう。

それでは、名前も――

「竣公さん?」

少女の言葉にはっとなり顔を上げる

「どうかなさったのですか。思い詰めたような顔をなさって」

大きな目が、私の顔を覗き込む。
美しい。
まるで一つの欠点のない美である。
白く細かい粒子によって構成された肌に、黒く濡れたような髪が善く映える。
月の青白い光を浴びて尚、頬の紅が添えられていてまた美しい。

私は何処か夢現に返答する。

「はこの事を、考えていた」

「箱?」

小首を傾げて手で長方形を作る。

「こんな箱ですか?」

「そんな匣だ」

桐の、綺麗な匣に詰めてはどうだろう。日本人形のようにきっと名前なら笑ってくれる。

「箱を何に使うのですか?」

一瞬、名前の言っている言葉を聴いていなかった。
ん?と聴けばはい?と不思議そうに此方をみる目と視線が絡む。

「竣公さん、聴いてらっしゃいませんね。」

「少し考え事をしていたんだ」

考え事?名前の整った唇がそう言葉を紡いだ。

「日本人形の事だ」

「まあ。人形?」

ぱふと両手を打つと大きな目を緩ませた

「私の家にそうですね――この鞄くらいの大きさの日本人形が在るんですよ。」

持っていた鞄を立てて微笑する。

「可愛らしいンですよ。おかっぱ頭でね、赤の振り袖を着てるんです」

楽しそうに話す名前をその姿に置き換えてみる。
濡れたような黒髪に赤い振り袖が映える。
その赤は名前の血で――

「竣公さん?」

はっと胸を突かれたようにまた名前の声で意識を戻す。

「またぼんやりしてらっしゃいましたね。」

「ああ、」

一瞬頭痛がして、名前の顔がぐにゃりと歪んだ。
竣公さん――声が遠くなった。


はこには蓋がしてある。厳重に何重にも楔が捲かれている。
私はその楔を怪我をしないよう、気をつけながら取ってゆき、蓋をゆっくりと開ける。
はこの中には――

匣の中には、微笑した―――



其処まで夢想して目の前の名前をゆるゆると見た。

心配しているような、それでいてまるで想像する母のような表情をしている。

思わずその華奢な体にしがみついた。

「竣公さん――?」

「名前、」


はこの中

まるで日本人形のやうな名前が入つてゐた





久保さんを書きたかったための話。
しかし話の内容が不明

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