▼ モノクロオムの女
相変わらずの偶像崇拝と瞳の美しさに、僕はほうっと見とれた。
長く黒いふさふさとした睫毛が頬に影をおとして肌の白さと対になる。
「まるでモノクロオムだ」
紅茶を飲みながら笑えば名前は大きな瞳で、切り絵のようでしょうと笑った
「みなからよく言われます。色彩がないって」
「色彩なら豊かだよ。名前は色に溢れてる。ただ、それが強烈過ぎてみんな目が麻痺しちゃってるんだろうね。だからモノクロオムなのだ」
漆黒の髪が揺れた
「難解な、言葉」
「名前はそう思わないのかい?」
「私はなにも。」
控えめに笑うと榎木津さんはと幽かな声を漏らした。
「色彩豊かですね」
「うん?」
「――、」
髪を掻き上げながら控え目に名前は笑った。
紅茶の香りが鼻孔を掠める。
「羨ましかったンです。――私は個性がないから」
「個性が何か明確に分からないからどうも言えないけれど、名前は個性豊かだろうに」
どうして?
名前の目がそう言った。
ゆっくりと微笑してから、そっと囁く
モノクロオムの、
「だって、僕が好いた人だからね」
これを書くのに何故か半年以上経っていると云う…
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