▼ 林檎の夢
最近睡眠不足の私には、探偵社のソファーに座っている間、ずっと眠るのを我慢していた。
いや、現在進行形で。
それもこれも、和寅さんの淹れてくれたアップルティの温かみと、榎木津さんが外出している為で、程よい温かみと静けさが私を眠りに誘う。
それでも眠らないのは和寅さんが前のソファーに腰掛けて妙にそわそわしてるから。
「名前さん」
ん、とカップに口をつけたまま上目遣いで彼を見ると、いやと言って目を逸らした。
「何ですか?和寅さん。名前呼んでおいて」
口を離して抗議すると、和寅さんは嫌々と首を振る。
「聞かない方が良いです」
「気になりますよ」
そう言って、また口をつける。
(眠い。)
寝ちゃいたい。でも眠れない。
瞼が仲良く引っ付きそうになるのを必死に開くが 、また引っ付く。
温かい。
眠りの使者はいつ何時訪れるか分からない。いつも不意にやってきて、あの暗くて温い眠りへ誘うのだ。
目を閉じた。私はそのまま、ゆっくりと眠った。
寝ているのか?
ぼんやりとした意識の中で声が聞こえる。
起きないなら、そうだあれで起こそう!
あれ?あれって何だ。
一応考えてはみるが、眠くてまた意識が霞んでいく。
白雪姫だッ!
白雪姫――?
何か解らず、私は目を覚まそうとする。
したとき、
「神が姫を迎えに来たぞ」
唇に、柔らかな何が当たった気がした。
林檎の夢
榎木津さん、寝込みを襲っちゃだめでしょ!
寝てる方が悪いのだ。
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