天体観察をするから、と言って出した望遠鏡に埃が積る頃、名前は憂いを含んだ顔で俺に別れを切り出した。
どうして、そう尋ねてしまいそうになる俺に、彼女は「知っているのよ」と吐き捨てた。
「あなたが、浮気を、していることくらい」
悪い冗談だ。何を言っている。焦る俺に彼女は、やはりぞんざいに言葉を紡ぐ。
「見たのよ」
「この間、美しいヒトと歩いているのを」
「幸せそうに、腕を組んで歩く貴方を」
「どうして浮気なんてしたの」
「最近、会えなくて、私がどんな思いをしたか」
「ねえ、何か言ってよ」
彼女の言葉は始めこそこちらが気圧されてしまうものだったが、徐々にその口調は弱まり、終いには両手を顔で覆って、おいおいと泣き出してしまった。
「名前、」
「お仕事だから、あまり電話もよくないだろうって、我慢したのよ私。会いたいって言うのも、重くなってはいけないから極力言わないでいようとしたし」
「名前、話を聞いてくれ」
「今さら弁解しても遅いのよ。私とあなたは別れるの。あなたの浮気が原因よ。うわき。ねえ、どうして私のほかに女をつくったの。私に何か不満でもあった?」
「名前」
彼女の肩を掴むと、ハッとしたように彼女は顔を上げた。
「私のこと、愛していてくれた?」
彼女の問いに、俺は思わず顔をしかめた。
「名前、聞いてくれ、」
彼女は神妙に頷く。
「浮気相手は、お前なんだよ」
彼女のヒステリーな金切り声が室内に響いた。
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