(現代)
彼女はもう三十分以上、カーテンの中に居る。幼子が、隠れん坊の際によくやる隠れ方だ。体にカーテンを巻き付けて、じっと外界を窺っている。
別に彼女と喧嘩をしたわけでも、何か彼女の機嫌を損ねているわけでも、ましてや隠れん坊をしているわけではない。ただ、彼女は三十分ほど前に突然、カーテンに包まったのだ。
「どうした」そんな声をかけても彼女は全くの無視を決め込んでいる。
始めのうちはこの奇妙な行動の意図を説明してくれるのだろうと思い、言葉を待っていたが徐々にその期待も薄れ、私は一人紅茶でも淹れておこうと考え一人台所へ向かった。
蒸らし作業をしていると、彼女が不意に「あ」と叫んだ。
何事かと台所もそのままに彼女の許へ急ぐと、三成、三成と嬉しそうな声で私を呼んだ。
「夕立がきた」
「夕立?」
「御覧になって、ほら、白雨よ」
窓の外を見る。なるほど、激しい雨に景色が霞んでいる。
雷も来るだろうか、そんな風に考えていると、名前が涼しくなるわねと笑った。
ふと、カーテンをベールの様に持ち上げてみた。
「名前、紅茶が冷える」
目を真ん丸にして驚いた後、あっとまた短く叫んだ。
「ダージリンの香りがするわ、あなた」
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