短編 | ナノ


「夢魔にでも遭ったの、随分とうなされていたけれど」

という、女の声に目を開いた。眼前に女の均等のとれた、美しい顔がある。私は深いため息を一つ吐いてから体を起こした。

「思い出せない。」
「何を」
「夢」

口を開くのが億劫だった。女はそんな私を見て、憐れむような表情をした。

「思い出さないのが、良いのかも知れない。だって、随分なうなされ様だったから、きっと悪夢だったんだわ。きっと」
「うん」

視界だがかすむ。まだ寝ぼけているのか。

「三成さん」
「眠い」
「そう、まだお休みになっていて」

随分な口ぶりだ。しかし今の私はそれを抗議する余力もない。かすむ現実とおさらばし、私は再び身を横たわらせた。


夢をみた。悪夢であった。秀吉様が斃れ、豊臣の栄華の終焉。
ああ何たる悪夢! 私はあまりのことに叫びたくなった。何の意図でこのような、無残絵巻を見せられるのか。
近しい先に起こる予兆? 馬鹿な、しかしなぜか笑えない。

「これは夢なのか」

鮮明さに私は震えを抑えきれない。
恐ろしい、現実こそ悪夢ではないか。頭がくらくらとして、私は地面に倒れた。



「夢魔にでも遭ったの、随分とうなされていたけれど」


という女の声に私は再び目を覚ました。

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