短編 | ナノ


(現代)
(本当にちょっぴり流血表現あり)

三成さんの背から小さな羽が生えはじめたのはいつだったか、えっと、三週間前だったかしら。よく覚えていないけど、たしかそれくらい前。彼の肩胛骨辺りから、小さな羽が生え始めた。当初、私はコスプレかなにかだと思って、三成さんを指差して笑ったりした(大へん勇気ある行動である)しかし、三日経ち、一週間経ち、その羽が大きくなって行くのを見て、ようやくソレが本物であることを認めざるを得なくなった。

彼の肩胛骨辺りから、本物の羽が生えていたのよ。


「羽が」


 そこまで捲し立てるようにして話した名前は、そのまま青い顔をして深い溜め息を吐いた。
 俺はそんな名前を見て、思わず頭を抱えたくなった。羽、名前の言う羽を俺は見たことがなかった。ここ一ヶ月、三成と時間を共にすることが多々あったが、アイツの背には羽どころかいつも塵一つついていなかった。名前の言っていることは妄言である。この女は一つの強い妄想に取り付かれているのだ。
 そこまで考えてから、俺は名前に先を促した。どうしても聞きたいことがあったのだ。


「三成さんは天使なんです」

そう私が言うと、元親さんは困惑したような表情を見せた。

「三成さんは天使なんです。その証拠が、あの三週間ほど前から生えてきた羽よ、あれがその確固たる証拠。純白の羽をもった天からの使者。……でも、彼は犯してはならぬ罪を」

「犯してはならぬ罪?」

「そう。……彼は、三成さんは私を愛してしまった」

「それのどこが罪だってんだ」

「愛欲に身を落としたの。天使よ、彼は天使なのよ。戒律を守る者の前に現れる、高貴なる……。その天使が自ら罪を犯したのよ」

「だから、」

「そう」

ほう、深い感嘆。私はあの瞬間を、もう一度鮮明に思いだそうと努力する。

「三成さんが身を落としたのは私のせいよ。だからこそ、私が決着をつけねばならなかった。天使であろうと悪魔にもなる。神は天使をも赦しはしないの。」

「神の代行とでも言いたいのか」

「まさか。……いえ、そうね。それは良い言葉だわ。神の代行、そうね。神に成り代わり、私は天使に罰を与えた」

「……」

「美しい羽をもいだの」

「ナイフで、」

「そう! 聖水に七晩浸し、処女の血を百回塗り込んだナイフで! 私は、罪深い天使から羽をもいだの。抉りとったの。ゆっくり背中にナイフを突き立てるの」

その光景の醜いこと。

「根から羽を抉りとれば、そこにはただ、人間に成り下がったものが横たわってた」

「……部屋は血塗れだった」

「ええ。天使の血よ。天使だったものの血よ。今はただのボディーだけどね。」



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