短編 | ナノ

(トリップヒロイン)


「ねえ名前もお呑みよ」
「未成年ですので結構」
「つれないね」

そう言うと、元就さんは少し不機嫌そうにしながらお酒を仰いだ。
晩酌に付き合ってくれない、と誘われたのは半刻前だったか。寝る準備を整えていた私は、不承不承ながら元就さんの言葉に頷いた。

「珍しいこともあるのですね」

誘われたとき思ったことをふともらす。

「元就さん、あんまりお酒好きじゃないでしょう」
「よく知っているね」

元就さんが私の顔をじっと見ながら応える。見詰め返そうとは思うのに、不思議に強い眼光に目を逸らしてしまった。

「ねえ名前」
「しっ史実で、いえ、私歴史が好きなんです」
「知ってる。この時代のこともよく分かってるものね」
「それで」
「うん」
「前に見たことがあって」
「私が酒が苦手って?」
「ええ」

チラッと元就さんを見ると、小首を傾げながら複雑そうな笑みを浮かべていた。
私には元就さん心意を読み取れない。そのため同じように小首を傾げてみた。いかにも分かりません、という顔をしながら。

「ふっふふ、いやごめん。意地悪してしまったね。あー面白い。いやいやごめん悪気は……いや、困らせるつもりはなかったんだ」
「いえ、あの」
「だって酒嫌いが歴史に残ってるなんて、なんだか恥ずかしいなあ。それを君のような娘さんが知ってるなんてね。有名なの?」
「えっ」
「私が酒嫌いだって」
「有名では……でも少し調べれば分かるかも」
「そうなの、へえ。ふふっいやあ面白いなあ。」


元就さんはけらけらと笑っている。そんなに私の態度が面白かったのか……というより、酔っているのかも知れない。元就さんは酔うと笑い上戸になるのか。


「はー面白い。あっ名前も呑む?のみなよ。注いであげる」
「けっけっこう」
「私が注いだ酒がのめないと」
「ちっ違います!未成年だから」
「ふふっ大丈夫だよもう十は越してるのなら」
「私の世ではお酒は二十歳になってから、なんですよ」
「ふーん。」
「だから呑めません」
「なんだ。一人酒は不味いから君を呼んだのに。いや、酒は旨くないよ、これはただ翌朝頭を痛くするだけの液体だからね、有意義じゃないよねっと氏康の悪口じゃないよ。ふふっ、でも時々悪酔いしたくなってね、一人酒をするんだよ」
「寂しくないですか……?」
「そう直球に聞かれたのは初めてだなあ。寂しいよ、寂しいから名前を呼んだんだろうに。君と呑んだら不味い酒があら不思議おいしくなーる、なんちゃって」
「……酔ってますよね?」
「酔っているねえ。いや、酔ってないよーよってない。」
「お水お持ちしましょうか?」
「いいよ、それより名前、私が膝枕したげよう。おいで」

それより何より、水を飲むべきだと思うのだが違うのだろうか。元就さんともあろう謀神が分からぬはずがあるまい。

「はやく、おいで」
「しかしですね」
「しかしも案山子もあるものか。来ないのなら私がゆくよ?」
「はあ」

行くってどこへ。あからさまに怪訝そうな顔で元就さんを見ていると、氏はあろうことか私の膝の上に頭を乗せたのだ。

「あの」
「壮観だね」
「酔ってます?」
「よってないよ。はあ君の腿は柔いねえ」
「セクハラだあ!」
「せくはら?何が何だか。」
「とっとにかく頭を退けてください」
「むりむり。私は君の足が気に入ったよ。弾力があって、適度な肉のついた腿。好いね。若い娘の張りのあってきめの細かい肌も良い」
「ううっ」
「これから毎夜膝枕で寝たいなあ」
「ばっ馬鹿言わないで下さい!」
「ふふっ、本当、名前は意地悪のしがいがあるよ。……はああ、さすがに疲れたね」

欠伸をしたかと思うと、元就さんは私の腰に手を回してぎゆっと抱きしめた。

「ああ、これは良い。極楽極楽。」
「は、放して下さい。……くすぐったい〜」
「んー」
「ちょっと本格的に寝ようとしないで下さいよ!元就さん?」
「……んー」
「起きて」
「んん」
「元就さん!……大殿!」
「……分かってるよ、寝るよ、布団で寝れば良いんでしょ」

何故だか不服そうに立ち上がると、私の手をぞんざいに掴み立ち上がらせた。

「あっ、あの」
「私の眠りを妨げたんだからね、責任をとってもらうよ。」
「腹切り……獄門?」
「はあ?違うよ、君には抱き枕になってもらうよ。」
「抱き枕、ですか?」
「そう。名前は柔いからね、一度抱き締めながら眠りたかったんだ。さあ布団へ急ごう。酔いが覚めぬ内にね」


妙に熱い手のひらに引かれながら、私は明らさまな溜め息を吐いた。

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