短編 | ナノ
(現代)


三成さんと車に乗って来た大型スーパーは、昔っからある地域に密着した所だが昨今の価格高騰にはさすがに地域に密着してはくれぬらしい値段になっている。

「偶の休みに来たらこれだ」

人混みにいちいち怒るラフな格好の三成さんに、はいはいと適当な返事をしながら買い物を進めて行く。

「お豆腐が安いって広告にありました」
「私が取ってくる。」
「なら生鮮食品売り場に居ますからね」

カートを押しながら進めば、五分も経たぬ内に三成さんが豆腐片手に戻って来た。

「これか」
「絹漉しですよ」
「絹漉しだ」
「ならカゴの中に入れといて下さい。」
「名前、私はほうれん草のお浸しが良いと思う」
「ならそうしましょうね」

ほうれん草と人参と玉ねぎとキャベツをカゴに入れれば、三成さんがスッと何かを買い物カゴに入れた。

「…鰆」
「鰹と迷った」
「食べるんですか三成さん」
「食べる」

真面目に答えられては仕方がない。値段をもう一度確かめてからレジに向かった。

「米はまだあったか」
「ありましたよ。」

レジ近くに積まれたお米を見て思い出したらしい三成さんが口早に尋ねた。こっちはもう財布も出した後なのに。

会計を済ませ、持って来たエコのためというよりポイントのためのバッグに食品を詰める。詰め終わると自然な流れで三成さんが手に持った。

「行くぞ。」

買い物カゴとカートを元に戻し、三成さんの元へ急ぐ。
横に並んで歩いていれば、エレベーターに行く途中で甘い匂いがした。

「カステラですよ、三成さん」
「ミルクカステラか。…なんだ」
「食べたい」
「食べたくない」
「美味しそうです」
「甘ったるいダメだ」
「えー」
「なら名前だけ食べれば良い」

ぶっきらぼうに言い放った割には、自分で買いに行ってくれた。遠巻きに見るミルクカステラを買う彼の姿は可笑しい。

「ほら」

戻って来た三成さんの手には白い紙袋があって甘い匂いがしている。正直、似合わない。

「ありがとうございます」
「言っておくが車内で袋を開くことは許さない」
「ああ、はあ」
「分かったな」
「なら家でゆっくり、二人で食べましょうか」

口元を緩くしながら言えば、三成さんはますます不機嫌を装った。

 



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