吉継様が私に包帯の替えを頼む時は、決まって体の接触を望んでいるときである。それを諒解している私は身を清くした後に吉継様の室へ向かう。 「名前です、」 と声を掛ければ、入れと短い返答があった。 静かに入れば、独特の香と薬の混ざった匂いが肺に満ちた。吉継様は衝立の向こうに居る。 「よう参った」 あなた様が呼んだのでしょう、とは言わずに目を伏せて微かに笑んでみた。一通り雑談した後で古い包帯を外して行く。 慣れたとは言え、今でも少々の躊躇いはある。薬を塗るために肌に触れるのは相手が相手なだけに恐縮と奇妙な恥じらいとで指が覚束なくなるのだ。 「名前」 顔を覆う包帯を取り始めた頃、吉継様が私を呼んだ。どうなさいました、手を動かしながら尋ねれば、無言のままにじっと目が合った。 合図だ。心中そう考えてから、薬にまみれた指で吉継様の容を撫でた。 「刑部様」 わざとらしく呼べば、嫌らしく目が笑った。 「ぬしはそうわれを焦らす」 「まさか、焦らすなど」 するりと細い腕が腰に回された。自然、体がより近くなる。 一、二度まばたきをした後、通例のように私から接吻をした。 唇を離せば、急にあの香の匂いが立ちこめた気がして、私は苦笑いの後に吉継様に跨った。 [prev|next] |