短編 | ナノ
(現パロ)
(先生と生徒)


――別に見惚れるほど美しいわけではない。ただ、何故か他の生徒に比べて特別に目を惹く。授業に訪れるたび、何故か名前のことを目で探し見ているのは、どういうわけがあるのか、自分でも正直なところ分かっていない。
特別に美しいわけではない。ただ、とても目が惹かれる。

(それはね、ある意味恋なんだよ)

同僚の半兵衛にはそう言われたが、もしこれが恋なら小生はとんだ犯罪者だ。というか、教え子に懸想など倫理的にどうなんだ。

果たしてこの気持ちというのか、この現象はなんなのだろうか――



「何だと思う」
「ある意味本人に聴くとはびっくりです、黒田先生」

放課後、黒田先生に呼び出されたため何だろうか、成績のことだろうかとそわそわしながら向かえば、突然先生から変な相談をされた。
知らんがな。第一の感想はそれ、第二の感想は、人選ミスだよ先生、であった。というか本人に聴くか普通。
黒田先生を見れば、うむとか何とか唸っていて、とても私の言葉に返事をしてもらえそうにない。

「黒田先生」
「うん?」
「お尋ねしますが、もし私が『それは間違いない、恋です!』と答えたらどうするのです」
「そりゃ『ほほう、本人が言うんだから間違いない!』と納得するが」
「ばかんべえが!」
「先生に向かってばかんべえとはなんだ!ばかんべえとは!」
「あのねえ、黒田先生。先生がおっしゃったことでしょう?先生が生徒を、なんて倫理的にどうなんだって」
「ああ言った」
「なら、簡単に認めちゃダメじゃあないですか。私へのその行動は、恋心ゆえではイケないのです。」

ううむ、とまた黒田先生は唸ってしまった。
まったくどこが知性派なんだろうか!生徒はがっかりどころか、ぐったりしているぞ!

しかし、まさか私の人生の中で先生に恋心について話したり、美しいわけではない、と何度も言われるはめになるなんてことは後にも前にもこれっきりなのだろう。というか、これ以外にあったら困る。困るのだ。


「ねえ、黒田先生」
「なあ名前、小生は何でお前さんのことを、こうも見てしまうんだ」
「否、だからね先生、きっとそれはたまたまなんですよ。きっとあなたの考える素敵なネオロマンスではありませんよ」
「そうかあ?だってお前さん、小生がいつから見てしまうようになったか知ってるか」
「いいえ」
「名前が入学してしばらく経ってから」


ということは二年ばかし先生は私を見ているわけか。ん?何故だろうか一瞬鳥肌が立った。


「ストーカー…」
「違う!断じて違う!」
「でもそれ、セクハラですよ先生」
「何故じゃあ!見ていただけだろうが」
「その行動理念が分からない今、ただのセクハラ野郎です。」

どんどん先生への好感度が落ちて行きますよ、とまでは言わずに、にこっと笑えば先生は深いため息を吐いた。

「お前さんが昔の彼女に似てる」
「へっ」
「とかなら説明ついたんだろうが、生憎、なあ?」
「えっ、うそ、先生って年齢イコール…」
「草食系なんだよ先生は」
「うそだ。絶対ウソだ。ああ、あれですか不特定多数の女子とどうたらこうたら」
「下品だぞお前さん!いや、まああながち間違っ……いや、だから!」
「不潔!ふしだら!やだ近付かないで孕んじゃう!」
「だからっ!」
「……冗談ですよ。やだなあ、真に受けちゃって」

先生の性生活をこれ以上聞いたらこっちがショックを受けそうだ。そう思った私は、降参のポーズをとった。

「何だそのかっこ」
「降参のポーズ」
「馬鹿にしてないか」
「まさか。」

首をゆっくり左右に振れば、先生はまたため息を吐いて、今度は机に伏してしまった。

「どうしてなんだろうなあ」

まさか、本当に私にロマンス感じているのだろうか、この一回り以上上のせんせいは。

そう思うと何だかやるせないような、何とも言えない気持ちになって、先生の髪をそっと撫でてみた。
先生が顔を上げる。私は思わず顔を横に向けた。

「何だお前さん。母性にでも目覚めたか」
「別に、ただ、」
「うん」

ただ、なんだろうか。ちらりと先生を見れば、先ほどとは違い余裕綽々といった面持ちで私を見ていた。

「ただ、」
「……お前さん、名前、こういう雰囲気に慣れちゃいないだろ」
「うるっさいなあ。このロリコン教師。」
「ロリコンの定義からお前さんは微妙に外れているな。」
「うるっさい不幸体質」
「そりゃただの悪口だ」
「なんだってこんな時に大人の余裕を見せるのですか。狡い、大人ってズルい。なによ、私を見る理由も分からないのでしょ」
「なにムキになってるんだ」
「だって」

はたと気付く。本当だ、どうしたって私、ムキになっているのだろう。

「カッコ悪い……」
「しょ、小生がかっ」
「違います。違うの、私なの、私の方なの」

何故だか急に泣きたくなってきた。感情がコロコロ変わる。こんなの自分らしくないなあ、なんて思う。思いながら、先生みたいに机に伏した。

「やだ、カッコ悪い、私まるで惨めじゃないですか?」
「さてね、先に伏せたのは先生だしな」
「嫌だわ大人の余裕なんて。先生意地悪よ。」
「そりゃ小生、ドSだからな」
「ウソだ。この嘘つき。ばーかばーか。先生なんて、ずっと悩んでれば良い」
「残念だが、今ついに理由がわかった」
「……へえ」

いよいよ涙が出てきた。理由は分からない。
音になってしまわないよう泣こうとしていると、黒田先生の手が私の頭を撫でた。

「ロマンスだよロマンス。」
「言ってなさいな」

私は先生が気が付いた後で気が付いたのだ、なんてカッコ悪い。
嫌だわ、これだから大人の余裕は嫌いなんだ。



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