(トリップヒロイン) 高麗への遠征の後、土産と言って刑部様が私に手渡したのは蓬莱の玉の枝であったので、私はこの人の仕掛けた謎々の意図を見いだせずに首を傾げた。 「刑部様、高麗へ往かれたのでしょう」 「さよう。さあむいさあむい高麗へな」 「でもあなた、高麗は東にありませぬ」 「そうよなあ。」 「では何故、蓬莱の物が此方に?」 枝をくるりと回すと、真珠の玉が音を立てた。 「蓬莱山の優しき住人が、」 枝から顔を上げる。 「ぬしに似合うであろと、手招きをしてこれへ誘ったのでな。つい三成に無理を言い取って参ったのよ」 「まあ、それでは竹取の物語ですね」 「そうであろ。」 「献上されたからに、私はかぐやの姫ですか」 「あい。ぬしほど愛らしゅう姫もおるまい。」 ふふっ、そんな風に思わず笑みがこぼれた。気恥ずかしくなって来て、くるくると玉の枝を弄んでいると、不意に刑部様が私の手を握った。 「ぬしよ、名前よ。天上へは昇りやるな。我はこうして律儀にも、ぬしへの献上物を持ってきたゆえ」 「でも私、頼んでなどおりませんよ」 「無理難題をふっかけられる前にな、手を打ったのよ」 「先手を打たれたのですね。」 二、三度ゆっくりまばたきしてから、刑部様の方へ身を傾けた。 「刑部様、ならば不死の薬もいらぬので。」 「それは帝へ献上するのであろ。我にはぬしの身一つが今生の喜びよ」 「今生だけ」 「いやはや、後までは知るまいて」 「ひどうい」 くすくすと笑えば、蓬莱から来た真珠の玉もころころと音を立てた。 title 花畑心中 [prev|next] |