(さいれん) (牧野というより宮野) (ギャグ) (捏造注意) 背後からずっと聞こえる「待って下さいよ名前さん」という愛しの求導師さまの声に振り返ろうともせず私は長距離走をしていた。 「酷いじゃないですか、どうしたって逃げるのですか」 「あなたが屍人化してるからですよぉ!」 違法建築の中をさ迷い、やっとの思いで大通りに出たと安心した矢先、目の前に見慣れた人が見慣れないかっこうで立っていた。 牧野さん?そう声をかけた私は何故視界ジャックを駆使しなかったのか悔やまれた。一体どうしてごり押しクリアを目指したのか、そう悔やんでも悔やみ切れない。声をかけられた牧野さんは前では考えられないほど良い笑顔をして、私は思わずぞわりとした。 「ま、まきのさん?」 「いらっしゃい名前さん」 そこから怒涛の追いかけっこの始まりである。というかこの三日間で持久力が各段に上がったと思う。死に物狂いで走ってるだけでもあるが。 「名前さん、待って下さいよ、私ね、あなたにあいたかったのですよ」 「私は遭いたくなかったー!」 「どうして」 「屍人化してるからだと言ったでしょー!」 「だから仲間になりましょって誘ってるんですよ」 「意味わからん!」 さすがに一時間以上走っていると必死さよりも疲れが勝ってしまう。どこかに隠れようと思い、距離の確認のため振り返ると牧野さんが私の肩に手をおくところだった。 「ひぃい」 「つかまえた」 「つ、捕まった」 ぺたんと地面に座り込む。 息を吸えば咽せてしまった。 「ほら、無理して走るから」 「あなたに言われとうないわ」 「こっちへおいで、ね」 「嫌です嫌です結構です」 「どうして?私のこと、嫌ですか」 「屍人化するのが嫌」 「幻想的な景色ですよ、ふふ」 「知子ちゃんステージで味わいましたよもう」 口元に手をあてて呼吸を整える。元からこんなに積極的だったら良かったのに求導師さま。 はあ、と溜め息を吐くと、牧野さんが私の顔を覗き込んだ。 「ちょっと赤い水を飲むだけですから、ね?」 「ねじゃない。可愛い子ぶるな27歳」 「なんなら飲ませますから、ね?」 「ねじゃな、えっ飲ませるって」 天国と地獄をいっぺんに味わえとおっしゃるのね!ある意味天国と天国だけれども! 胡乱になってきた思考回路の中でどんどんと屍人化も悪くないかもと思ってきた。求導師さまと一緒に居られるし、いや、でも、うーんと悩んでいるとどこからともなく牧野さんはコップを取り出した。 「雨水を溜めますからちょっと待ってて下さいね」 私は疲れた体に鞭打って走り出した。 (求導師さまのばーかばーか!分からず屋!) (待って下さい名前さん!) [prev|next] |