(さいれん) 愛らしい子供の眼をした少女が、空中へと手を伸ばして、いつか空を飛ぶのよと宣ったのでつい、俺は頬を弛めてしまった。 「そんなことを言った彼女は、今どうしているのでしょうかね」 冷たい病院の壁にもたれて雨の音を聞いていると、不意に宮田先生が呟いた。私はその愛らしい少女と、珍しく笑む宮田先生とを想像して膝を抱えた。 「きっと、無事ですよ」 「本当にそう考えているのか」 「へ」 「なんて、」 先生を見れば、冷たく私を見下げていた。 「マイナス思考はいけませんね。確かあの少女は村の外れに住んでいたから、こんなことには巻き込まれていないでしょう。ね、きっと」 「ええ」 何か、気圧されるように頷いた。 「一心に神さまを信じる健気な少女だ。きっと、そんな穢れない若子を神は救い賜うのですよ。ね、名前さん」 「あなたは、宮田先生は、何にか怖れているのですか」 私の問いに宮田先生は顔を歪めた。 「怖れ?俺が、まさか」 「だってあなたの口振りはまるで神さまからの救済が得られない人のようで」 じっと先生を見る。ふと会話が止まり、私はいたたまれなくなって外の雨音に耳を傾けた。 赤い雨が外ではずっと続いているのだろう。シンと底冷えのするのような赤い色だけが外を覆っているのだろう。 「…名前さん」 先生の声にハッと現実に戻る。 「俺は、神を恨んで来ましたから、きっと救済なんて訪れえぬのです」 「でも神さまは万人に平等でしょう」 「そう思うなら名前さんにも、救済は訪れますよ」 随分な口振りだと、宮田先生を見た。 「俺はね、神さまから嫌われているんです」 冷たい病院の壁に身を任せて、ゆっくり目を閉じた。 もしかしたらあの赤い雨は神さまからの慈悲の雨やも知れませんよ、と言えば先生は頬を弛めた。 [prev|next] |