(現代) ベッドの上で重く瞼を閉じる名前にひとつ溜め息を吐いた。 二日前から体調不良を訴えていた彼女は昨日、急に熱を出したのだ。医者に診てもらえば、インフルエンザと言われた。 「あれほど予防接種は受けろと言ったのに。」 熱さまシート越しに額に触れる。熱は今日が一番高いらしい。 障害越しにも感じる熱に、体温計を取ろうと立ち上がった。 「まって」 ドアノブに手を掛けたとき、そんな枯れた声がして後ろを向く。 「まって、半兵衛さん」 ゆっくり起き上がろうとする彼女に思わず駆け寄り、やんわりと肩を押さえる。 「半兵衛さん、」 「うん、僕なら居るよ。居るからね」 「半兵衛さん、こわい夢をみた」 「こわい夢?」 「そう。」 熱い体で擦りよる彼女を抱き締める。熱が見せる悪夢らしい。譫言を幾らか言ったあとで、名前はまた寝入った。 赤い顔に掛かる髪を指先で退けてから、名前の厚手の上着を拝借する。 春の夜とはいえ冷え込むのだ。彼女の看病をして倒れたとあればとんだお笑い草だ。 僕はベッドにもたれかかって、朝を待った。明日になれば、落ち着きを取り戻した体温と一緒に僕を起こしてくれるだろうことを期待して。 [prev|next] |