(パロディー) (佐吉ときどき三成) (母は夢主) (そんなに関係ないけど昭和設定) タクシーの中からぼうっと外を見ていれば、ネオンの賑やかな色が目を貫いて私は痛みに堪えかねるように瞼を閉じた。 夜なのに明るい。鞄の中に入っている詩集を取り出せば、頭は白く暈けた。 「―――、」 目を開ける。タクシーが止まった。運転手に賃金を渡した後、私は千鳥足でタクシーを降りた。 帽子 「佐吉」 と母に呼ばれて振り返った。 夏の日差しはじりじりと肌を焼く。あなたの肌は弱いから、と母に伊太利麦の大きな麦わら帽子を渡された。 「かあさん」 見上げても母の表情は分からない。私は麦わら帽子を被っているのに、母がなんにも被っていないことに対してなんとも言えない心持ちになってしまい、私は帽子の縁を両手で持って目深に被ってしまった。 「佐吉、ほら、もうすぐ橋にかかりますよ。」 母の数歩後ろを歩きながら母の言葉に頷いた。 母はいつも白の着物に身を包むとするすると向こうへ行ってしまうのだ。子どもの心にそれは恐怖だった。 「かあさん、まって」 私は走り出す。そのとき、ひょうとひときわ強い風が吹いた。 「あっ」 私の声に母が振り向いた。 風に煽られた麦わら帽子はそのまま私の手元にはかえらず、沢へと落ちてしまった。 「ぼうしが」 「佐吉、」 「おとしちゃった」 橋の下を覗けば、麦わら帽子は長い草の中に埋もれていた。 イニシャルの入った帽子を、母が手渡した帽子を、何故あんなにも惜しいと思ったのか、私は座り込んで泣き出してしまった。 「かあさん、かあさん、ごめんなさい」 あのとき母はなんと言ったのだろうか。好いよと言ったろうか、私を叱ったろうか。ただ夏のその時の思い出だけが胸に浮かんで来て、今でも寂しくてならないのだ。 果たしてあの麦わら帽子はどうなったのだろうか、と私は目を閉じながら考えていた。 [prev|next] |