(秀吉様の妹君) 秀吉様の妹という尊い存在であるはずのあの女を、私は敬えないでいる。 病弱で気弱で愚鈍な女だ。強くあるべき豊臣軍にそぐわない存在。 それなのに、秀吉様や半兵衛様に保護され慈しみを一身に受けている。 私はあの女が憎くて仕方がない。 そんな私の思いに気付いているのか、女はあからさまに私を避けるのだ。それが善い、視界にも入れたくない存在なのだ。しかし、気のお優しい半兵衛様が私に尋ねるのだ、どうして彼女と仲良くしないのかと。彼女は大変気に病んでいると。 「仲良くしてやって呉れ、と半兵衛様に言われたのだ、貴様はそうして自身では動けない振りをして秀吉様や半兵衛様を動かすのだな」 床に臥せている女を睨めば、身をきゅっと縮ませて私を見ることもなくごめんなさいと呟いた。 「私の、せいで」 「そうだ、貴様のせいだ。貴様が居なければ半兵衛様、秀吉様そのお二方の御手を焼かずにすむのだ」 「ごめんなさい」 「謝ってすむわけがない」 ぐっと腹を踏みつける。 空気の漏れるような音が女の口から出て、私は思わず眉を潜めた。 「私は貴様が憎くて仕方がない。秀吉様の御寵愛を、半兵衛様の慈愛を一身に受ける貴様が」 一瞬足を上げてから思い切り蹴りを入れる。 ごろりと転がり、女は咳き込んだ。 「み、みつなりさま、ごめんなさい」 「何故私に詫びる。詫びねばならぬのは秀吉様と半兵衛様だろう」 「あに、うえさまあ」 ぎり、奥歯を噛んだ。一瞬頭が真っ白になって、先ほどよりも強く蹴る。 「貴様はやはり反省していないらしい。そうして泣き声を上げれば庇護者が守って呉れると思っているのか。」 「思っていません、みつなりさま、三成様ですからどうかお止め下さいませ」 「貴様の頼みを聞くと思ったのか」 やはり愚鈍な女だ。 胸部を踏みつける。息ができないのか、必死に私の足を退かそうともがく姿は大変に可笑しい。 「このまま貴様を殺めて仕舞おうか」 私の呟きに、抵抗する力が増した。 こんな女でも死ねば秀吉様や半兵衛様は悲しまれるのだろう。ゆえに殺しはしない。それをこの女は分かっちゃいないのだ。 「愚鈍な女だ」 私はこの女が憎くて仕方がない。 しかし、この女が死んだとき悲しまれるお二方を見るのは最も憎むべきことなのだ。仕方無く、私は足を退けて部屋を出る。 きっとあの女はまた、半兵衛様に泣きつくのだろう。そうしてまたお二人の手を煩わすのだ。その度私はあの女に仕置きをする。反省もできないあの女に。 生命こそが罪悪 「名前様、半兵衛様の命により石田治部少輔三成参上仕りました」 あの女の怯えた顔だけが、私の慰みなのだ。 少し前に書いたものをアップ。 秀吉様の妹と書きましたが旭さんイメージではないです。あとがきで言ってもおことわりにはなりませんが [prev|next] |