(現代) 「もうすぐ誕生日だな」 ソファーで横になってみる微睡みの中、そんな家康さんの言葉だけが聞こえて今まで閉じていた目を開いた。 「なんだ、起こしてしまったか」 「起きてましたよ」 「嘘吐け。頬に跡がついてる。」 思わず頬を覆えば彼はかかと笑って手を振った。 「嘘だ」 「嘘吐き」 「悪かった。ふふっ、真面目に受けるとは思わなかったんだ」 「非道い」 「だから悪かったって。そう、それで名前もうすぐ誕生日だろう」 「ええ」 「プレゼントは何が良い?」 この歳になってまさか聴かれるとは思っていなかった言葉に思わず吹き出してしまいそうになり、慌てて奥歯を噛んで至極真面目な表情を作った。 「プレゼント、」 「そう。」 「なら、わたし小指が欲しいです」 家康さんが一瞬驚いたらしく目をまあるくした。 「小指って」 「ほら、遊び女は小指を切ったのでしょ?」 「ああ、なんだ、そういう意味か」 「あら分かりませんよ。存外本当に指かも知れない」 「お前はそんな馬鹿じゃないさ」 ソファーの縁に座った家康さんはそう言って笑むと、自信の小指を曲げたり伸ばしたりしていた。 「指輪は何号だった?」 「さあ、計り直しませんと」 [prev|next] |