短編 | ナノ


夜の端っこまで逃げれば安心だ、と言った名前はそのまま毛布に潜り込んで眠って、……。

「〇〇〇〇」

何事か聞こえる。ぼんやりと隅っこから覗く世界は薄くぼやけてしまっている。


「春が嫌いなのです。」

名前の声に、私は毛布を見詰めて応える。

「春はもう、過ぎるではないか」
「夏が嫌いなのです」
「夏はまだ来ないだろう」
「秋が嫌いなのです」
「秋は遠いだろう」
「冬が嫌いなのです」
「冬は通って行ったろう」

毛布から目を離し、また夜を見た。


「自分が、嫌いなのです。」


いやにはっきり聞こえた言葉に、夜を見詰めながら、ああと薄く答えた。


「自分が、」
「光に当てないで下さい。私はきっと、醜く、世界に映るのです」
「夜は」
「闇の中に入れないで下さい。今に私は、闇に溶けてしまいます」
「名前」
「名を、呼ばないで」

するりと白い腕が伸びた。
その弱々しい蜻蛉のような手を握れば、冷たさと温もりを感じて厭になってしまった。

「夜から私を遠ざけて」

ならば私が一番退かねばなるまい。そのはずなのに、一向に彼女は私の手を離さないのだ。

「光から逃れさせて」

「私はそのために夜の端っこに来たのですから」


ゆらりゆらりと陽炎がたつ。
夜の端っこから眺める世界は、厭になるほど眩いのだ。



「私を闇に閉じ込めて、」

 



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