(百合百合しい) 「見て、名前、ほらこのお腹」 愛おしげに腹部を撫でる市に、私は目を細める。きっと他人が見れば、私がいかに歪んだ表情をとったか分かるだろう。しかし目の前の、恍惚とする乙女には伝わらないらしい。 「あなたとの子」 初めて市がそう口にしたとき、私はゾッとして彼女を見た。 「なにを言うの」 あなたと私は女同士よ、そこまで言えば、彼女は一瞬きょとんとした後で、両手で顔を覆って泣き出してしまった。 私はついに恐ろしくなって、身を翻そうとしたのだ。しかし、彼女の腕がそれを許してくれなかった。 「名前、どうしてそんなこと言うの」 「市こそ、ねえ、ふざけているなら」 「ふざけてなんかないわ」 「なら、」 ならば本気で、私はいよいよゾッとして、この美しい乙女の手を振り払おうとした。 「離して」 「いやよ」 「市、」 歪んだ表情だ。ああ、私の友人は歪んでしまった。呆然となった私を市は抱き締めた。 「一緒にいてね。」 それ以来、この狂言に付き合っている。最近膨らんできた彼女のお腹の中にはきっとおぞましい、なにかドロドロとした液体が詰まっているに違いないと私は思っている。 「名前、ほら、蠢くの。夜になるとね、あなたと市を結の」 「そう」 抗うのに疲れた、というのは言い訳だろう。私はゆっくりと彼女の腹部に手を這わせて、その内のドロドロとした、蠢く、何か奇妙なものを夢想しては奥歯を噛み締めているのだから。 「愛しているわ」 [prev|next] |