月光〜Mebiusの永遠〜2


「ユーリ、立派な男に成長したな。ガキの頃から頭が良くて筋も良かったが、お前なら大丈夫だろう……」

そう言ってベルリオールは苦笑していた。その笑顔は昔から一つも変わらない。そんな叔父の様子に安心感を抱きつつ、けれど、この数年のうちに色んなことを経験してきたユリシスは、自らの心の奥底に深く痛手を負い、その傷は癒されることなく時間だけが過ぎ去って行った。

宮廷を飛び出して放浪の旅を続けている間に、一体いくつの命をその手で奪ってきたのか。





「……私は、それほど立派な人間ではありません。貴方が思っているほど、母上のように綺麗な心を持ってはいないし、王になるには器量が足りない……この国は、このまま貴方が治めていたほうがきっと……」

微苦笑を浮かべるユリシスの顔がルーシアと重なる。そうでないとわかってはいても悲しく微笑むその表情(かお)が、いつかの彼女のそれとあまりにも酷似しすぎていて……

刹那、

ベルリオールはふっと惹かれるようにユリシスの唇を塞いでいた。





「……っ、んっ!?」


「……シ…ア……」




再び引き寄せた腰にまわす腕に力が込められる。唇を塞いだまま、舌を絡ませながら、ベルリオールはもう片方の手でユリシスの衣服を剥ぎ取っていった。


どさり。と、そのまま床に押し倒し、窓の外から入り込んだ満月の銀色の光が、あらわになったユリシスの肌をあやしく照らしだす。ベルリオールはその美しさに眩暈すら覚えそうになっていた。



「……」

「……」




「――‥抱きたいのですか?」

ふいに、ぽつりとこぼされた言葉に、ベルリオールはハッと我に返った。床に体を預けたユリシスの碧色の瞳が、男のアイスブルーの瞳を真っ直ぐに捕らえていた。


「……」



「私を抱きたいなら、どうぞ。抵抗はしませんよ」

冷ややかな声色にのせた言葉がユリシスの口から紡がれる。








「……すまん。俺はどうかしているな……ルーシアではないとわかっているのに……」

軽く頭を振ってベルリオールはユリシスから視線をそらし、そっとその場を退いた。




「……母上を、愛していたのですか?」

ユリシスはゆっくりと上体を起こし、こちらを直視せぬようにと立ち上がって頭を抱え、うなだれるベルリオールの背中に向けてそう尋ねかけた。





「ああ 愛していたよ。それは今でも変わらない……この先もずっと、な……」

そう言ってベルリオールは歩き出した。ユリシスは部屋の扉の向こうにその姿が見えなくなるまでそんな叔父の、広い背中を見つめていた。

そうしてそっと立ち上がり、乱れた服を整えることすらせずに彼はベッドの脇にたてかけておいた細身の剣をその手に取った。


普段使っている自らの愛剣とは違う、もう一つの剣――。
それはかつて旅の仲間であった魔族の女性が遺したものだった。



「――‥アス……」

その名前を口にして、剣を持つ手に少しだけ力をこめる。



(……あの日、置き去りにしてしまった心を……いつかは拾いに行ける日がくるのだろうか……)

内心でそんなことを思いながら物憂いに動かした視線の先には、静かな銀色の光を湛えた満月が城下の街を照らし、すべてを優しく見守るように、浮かんでいた。



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