Anxiety〜不安〜2
色々なことが頭の中をぐるぐると巡り、不安で仕方なかった少年の心をさらに掻き乱していく。
「……アス……ユーリ……」
「……」
胸元に顔をうずくめて震えるシーナの声に、ルキフェルは一瞬だけ眉根をよせて切なそうな表情を浮かべていた。
(……何だか悔しいな。今ここにいて、この子を抱きしめているのは俺なのに――‥)
ふと脳裏に過ぎった予期せぬ自らの想いに、ルキフェル本人も驚きを隠せない。
腕の中で泣いている少年の頬にそっと手を当てて、無防備だったその唇を自然の流れるままに塞いでいた。
「っ、!?」
青年の銀糸の髪がさらっとシーナの頬をかすめた。
「……な……に……?」
唐突過ぎるルキフェルの行動にシーナも戸惑いを隠せず、ただただ足元から力が抜けていく感覚に見舞われながらも衣服を握りしめていた手に精一杯の力を込めた。
***
「う〜ん。そこまで警戒しないでくれないかなぁ?」
それから少ししてからのこと。
ルキフェルは苦笑しながら肩を竦めて盛大なため息をもらし、そう言った。
先程の魔族の青年の突飛な行動に、シーナは思わず警戒心を剥き出しにしてルキフェルから少しだけ距離を取っていた。
「……いや、何つーか……どこぞのセクハラ魔法剣士を思い出して……」
あまたの方向に視線をそらしぼそっとそんなことを口にする。
そんな少年の様子を眺め、ルキフェルは再び小さく肩を竦めてまた微苦笑を浮かべた。
「少し冗談が過ぎたね。ごめんよ、シーナ……君があんまりユリシス王子にご執心だから、ついからかってしまいたくなったんだ」
「……からかっ……て? 意味わかんねぇよ、ルキ。
でも俺――お前のことも好きだぞ。ユーリやアスと同じくらい」
「……」
「……」
「ぷっ あはははっ! シーナ、それ――‥極上の殺し文句だよ? 参ったなぁ。流石に俺も、コロッと落ちちゃいそうだ……」
「……はぁ?」
少年が深い意味も考えずに何気なく呟いた言葉に、ルキフェルは豪快なまでに声をあげて笑ってしまった。
そんな青年の様子に、シーナは怪訝な表情をしながら間の抜けた声を漏らした。
「……ねぇ、シーナ。本気でこのまま……君を口説いてみてもいいかい?」
「は? ぇえっ!?」
月夜に穏やかに吹いていく風が青年の銀糸の髪と少年の衣服を揺らしていた。
シーナはまた再び青年のしなやかな腕の中へ捕らえられ、優しい眼差しで見つめるその濃い紫の瞳から視線をそらすことが出来なくなっていた。