星の時計台 | ナノ
CASABLANCA2


***


「っ〜! 信っじらんねぇ、馬鹿!! 何で正月早々にお前のノーテンキ面見なきゃなんねーんだよっ」

神社の境内に向かう途中の道筋に、そんな少年の声が響き渡る。

「何よ〜、聡がいつまでもぐぅたら寝てるのが悪いんでしょ!?」

まけじと少女も言い返し、二人の少年と少女はしばしの間睨み合っていた。



「こらこらこら。相変わらずだね、お前たちは……
お正月くらい穏やかにいけないのかい?」

その間に割って入り、赤茶けた髪の少年はそう言いながらも少女のニット帽をぐっと深く被せ、怒声を浴びせていた少年のはねた黒髪をぐしゃっと豪快に撫で回していた。


「にゃうっ 前が見えないよ、たつにぃ〜!?」

「やめろよ、たつき! 髪がまたはねるだろぉ!?」



「だったら大人しくする。はぐれて迷子になっても、俺は知らないよ?
初詣に来てるのは俺たちだけじゃないんだから……」

睨み合う少年と少女を一喝するように、たつきは半ば呆れたようなため息を漏らして静かにそう言った。


二人は不満そうに顔をしかめて同時にたつきの方を見上げたが、笑顔こそ作ってはいたもののその目が笑っていないことに気づき、思わずそのまま押し黙ってしまった。


(……たつ兄……目が笑ってないよ……)

あゆは内心でそう思いながらも、たつきの顔色を伺うようにちらりとその端正な横顔を見遣った。

やはり兄弟と言うこともあって、たつきと聡はよく似ている。








「あっ おみくじあるよ。ねぇ、引いて行こうよ!」

境内に向かう一行は、溢れ返るような人混みを掻き分けながら進んでいく。途中、出店が立ち並んでいる場所を通って行くのだが
ふとお守りなどを売っている店に目が止まり、あゆはそう言ってたつきの腕を引いた。

「今年一番の運試し。たつ兄もやろうよっ あ、ついでに聡も」

「……俺はおまけかよっ!」

「あ〜、はいはい。全く、お前たちは仲がいいんだか悪いんだか。
いい加減にしないと、俺も本気で怒るよ?」

再び言い合いを始めそうな二人を制するように、たつきはまた口を挟んだ。








「うーん、中吉かぁ……まっ こんなもんだよね」

あゆはふうっと短く息をつきそう言った。


「………」

「うん? どうしたの、聡?」

内容を確認し、引いたおみくじを丁寧に折りながらふと向かいに呆然と立ち尽くす聡に気づき、あゆは闇色の瞳を瞬かせて声をかけた。





「……だい、きょう……」

だがぽつりとそう呟いたのは引いた聡本人ではなく、おみくじを持ったまま硬直していた聡の横にいたたつきであった。

珍しい――と口にして、たつきは固まったまま動かない弟の眼前でひらひらと手を振った。

「聡、大丈夫かい?」

怪訝な様子で声をかける。





しばらくの沈黙の後、はっと我に返った聡は、ふるふると頭を振って

「すげぇな、俺。大凶なんか初めて引いた……」

そう言って苦笑いを浮かべたのだった。


「………」

運だけは並外れていいのに――
その時、たつきの中でざわりとした何かが過ぎった。

(? 何だろう? 何だか、すごく嫌な予感がする……)



目の前で少女とじゃれあい、引いたおみくじを近くの木に結びに行く無邪気な弟の姿を眺めながら、ふとそんなことを考える。


“失せものに注意”

たつきの引いたおみくじには、そんなことが書かれていた。

手にした紙切れに再び視線を落とし、短く息をつく。



(……まさか、ね。気のせいだよ、きっと‥――)

口元で小さく自嘲するように笑い、一度瞳を伏せて手にしていたおみくじを折ってゆっくりと歩きだした。




たどたどしい手つきで木の枝におみくじを結び付ける栗色の髪の少女と、その不器用な様子をからかって楽しそうに笑う弟を交互に見つめながらたつきは再び微苦笑を漏らした。

その穏やかでゆるやかな当たり前のような時間がいつまでも続けばいいと。
ただ、それだけを願って――。

自らも紐状に長細く折りたたんだ白い紙切れを二人から少し離れた枝に結び付けた。








――20xx年、元日。
新しい一年の始まりの日。


だが、


三人揃っての初詣は、この年が最後となった。

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