星の時計台 | ナノ
Holly Snow Moon3


「“Merry X'mas”あゆ。これは私からのクリスマスプレゼント……。きっと君を守ってくれるから」


いつの間につけたのか、あゆの首元に光る小さなプラチナのクロスペンダントを指先でつまみ、彼はまたにこりと笑った。









「……あぁ どうやら、今度は君に迎えがきたようだね」

「え? あ……」

離れていくルミナリスの手を名残惜しむように、彼をこの場に留めたくて声を上げようとした時だった。






「――‥あゆ、こんな所にいたのかい? 随分探してまわったよ」

聞き慣れた青年の声が少女の名前を呼んだ。

ハッと我に返り振り向いたその先には、見事な純白の毛並みにサファイアの瞳を持つとびうさぎのような獣を肩に従えたあゆのよく知る金髪碧眼の青年――ユリシスが立っていた。



「……ユーリさん……」

青年の愛称を口にしてふと気がついたように湖に視線を戻すと、先程までそこにいたはずのルミナリスとミゥルの姿はもうすでに何処にも見当たらなくなっていた。



(――‥いない? あたし、ペンダントのお礼も何も言ってないのに……)

少しだけ残念そうに足元を見遣り、あゆはそっと自らの首元に光るプラチナのペンダントに触れた。




「今、誰かと話していたようだけれど……」

湖を見つめるあゆの隣に歩み寄り、ユリシスは語りかける。

「……月の神様って、本当にいたんだね」

「ルナミスのことかい?」

「ううん。ルミナリスって言うんだって……女神様じゃなくて、ユーリみたいにすごく綺麗な金色の髪の……男の人だったよ」

嬉しそうにそう語る少女の横顔には、久方ぶりに見る彼女のいつもの笑顔が浮かんでいた。




「ふふっ 久しぶりだね、君がそんな風に笑うのは。少しは元気になってくれたのかな?」


「……え…、あっ!?」


ふわりと金糸の羽が舞う。

唐突に抱き寄せられた少女の華奢な体が、ユリシスの腕の中にすっぽりとおさまっていた。




「こんなに冷えてしまって……。いつからここにいたんだい?」

「……」

どきどきと高鳴る心音が、今にも外へとこぼれそうだった。
人肌がこんなにも心地がいいと感じたのはどれくらいぶりだったろう?
そんな思いを抱きつつ、あゆはそのままユリシスの胸元に顔を埋めた。












ザッと一瞬だけ強い風が二人の間をすり抜けて行った。

夜空を見上げると、先程まで輝いていた月が薄雲に見え隠れし
そのうちにチラチラと白銀の結晶が辺りを舞いはじめた。



「――‥あっ 雪……」

ふいに顔を上げて夜空を仰ぎあゆは手を伸ばした。
ひんやりと舞い落ちた雪の結晶が、少女の手の中で弾けて溶ける。



「スノークリスタル……」

「ホワイトクリスマスだよ! ねぇ ユーリ……ほら、雪!!」

「……」

闇色の瞳を輝かせ楽しそうにはしゃぐ少女に破顔の笑顔が戻っているその様子に、ユリシスはほっと胸を撫で下ろしほんの微かな苦笑を漏らした。






「……そろそろ戻ろうか? あまり長く席を外しては、叔父上がまたヒステリーを起こしかねない」

「うん、そうだね。ごめんね ユーリ? 探しに来てくれて……ありがとう……」


えへへ、と後頭部をかきながらあゆはぺろっと舌を出して見せる。




「おいで」

そう言って差し延べられたユリシスの手を、少女はなんら躊躇うことなく取った。

そして二人はゆっくりとわだつみを後にするのだった。

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