Careless demander〜とある日の事件簿〜4
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所変わってシャーロムの宮廷内にある王女の寝室。
ベランダからそよぐ風がとても心地好く、あたたかな春の陽気に眠気を誘われそうになる。
ライトブラウンの髪の少女は両手いっぱいに抱えていた分厚い装丁の書物を窓辺の丸テーブルの上に重ね置き、肩先に乗せていたリシュカをその上にそっと降ろした。
「……そろそろティータイムですねぇ。エルミナにお茶を用意してもらわなくちゃ……リシュカ、ちょっとだけここにいて下さいな」
にこりと微笑み、少女は指先でリシュカの癖のある青髪を撫でた。
「あ、あの……姫様?」
「? どうかしましたか? あ――‥大丈夫、ですよぅ ほらセオールもすぐに元に戻るって言っていましたし……それまでは、ちゃぁんとわたしが面倒を見ますから」
ちょっぴりだけ不安そうに顔をしかめるリシュカに気付いて、アナスティアはそう言ってもう一度微笑んで見せた。
(……うぅっ 色んな意味で不安なんですけど……)
ばくばくと煩い心音に気持ちが持っていかれそうになりながらそんなことを内心で考え、獣耳を持った小さな少年はかっくりと肩を落としていた。
後日。
リシュカがそんな奇妙な姿から元の姿に戻ったのは、それからおおよそ一週間ほど経過した頃だった。
「うわ、俺も見たかったぜ ケモミミつきミニマムリシュカ。……くくっ さぞかしかぁわいかったんだろうな〜?」
ゲシュタット宮廷の中庭に設けられた小さなカフェテラスで毎日の日課の如く白い丸テーブルを囲い、少年二人と一人の青年が午後のティータイムを満喫していた。
半分以上本気で楽しそうに笑って見せる淡い紫色の髪をした青年は、向かいに座るリシュカを一瞥し女官(レイラ)に用意させた紅茶を一口含む。
「……うぅっ 笑い事じゃないですよ、兄さんまで!」
大変だったんですよ〜と付け足し、意地悪く笑い続ける自らの実兄であるルーカスに抗議する。
「……だから言っただろう? コイツはむしろ面白がるってな。たまたまネオが隣国に出張中だったことが唯一の救いだった、とでも思っておけ」
「………」
盛大なため息と共に隣に座っていたセオールにそう言われ、リシュカは色んな意味で落胆しうなだれていた。
「まっ 戻ったんだからいいじゃないか。その姿を見れなかったのはちょっと残念だけどな?」
などと再び苦笑しながら話すルーカスに、多少の?小憎らしさを覚えつつ
そんな兄に対し、いつか同じ目に遭わせてやろう――と密かに企む
天然癒し系?リシュカのちょっぴりだけ黒い部分が垣間見えるのは、また別のお話。