Forfeit2
暖かな春先の陽気に誘われるように少女は一人、河原を歩いていた。
穏やかな春風が少女の癖のある栗色の髪を凪いでいく。
足元に転がる大小様々な石ころをつま先で蹴りながら、少女はふと物憂いな様子でよく晴れた青空を見上げた。
その手にはこじんまりとまとめられた小さな花束が握られており、卒業証書の入った二本の筒を胸に抱えている。
「――‥卒業おめでとう……ねぇ 聡(さとい) 来月から、あたしたちも中学生になるんだよ。たつ兄と一緒に、学校に通えるよね……?」
青く澄み渡った空に流れる雲に向かって力無く少女はそう呟いた。
ぱたり。と、少女の闇色の瞳からこぼされた涙が頬を伝い足元に転がる石を濡らす。
「っ、どうして……? ついこの間まで一緒に学校行ってたじゃない! 春になったらお弁当持ってお花見に行こうねって……今年の夏も、みんなで蛍を見に行こうねって……」
約束したのに――と呟いて、溢れ出す涙を拭うことすら出来ずに少女はその場にうずくまった。
誰ひとりとしていないこの河原に、嗚咽をもらしなきじゃくる悲痛な声が響く。
四月から一緒に通うはずだった中学校。
“俺 バスケ部に入るんだ。今に見てろよ? きっとたつきを超えてやる――”
そう言って笑っていた幼なじみの少年の顔が脳裏に甦る。
「……聡の、バカ……! バスケの才能皆無なのに、たつ兄に勝てるわけ……ないじゃないっ……!!」
そんな悪態を口にしながら未だ止まることのない涙もそのままに、二本の筒を抱える腕にぎゅうっと力を込めた。
そうしてしばらくの間 自らの心が落ち着くまでと、少女はそこに座り込んだまま動けずにいた。
まだ少し冷たい風がゆるりと通り過ぎ、対岸に広がる草むらが
ざわりざわりと乾いた音を奏でていく。
つい数日前まで一緒にいた。
けれど、何の前触れもなく忽然といなくなってしまった。
その時、少女は初めて気付いたのだ。
いつも顔を合わせるたびに口喧嘩ばかりしていた、幼なじみの少年――。
“生意気で、自意識過剰で、どうしようもないやつ”
そう思っていたのに。
――‥それでも、“聡のことが好きだった”こと。
いなくなって初めて、その大切さに気付かされたのだった。