星の時計台 | ナノ
Mental Panic〜お返しどうする?〜3


「やあ 今日は、可愛らしい魔道士くん。初めて会うよね? 俺はルキフェル=シュヴァイツ。しがないハンターさ」

にこにこと屈託のない笑顔でルキフェルはそう名乗った。
だが、この状況がイマイチ掴みきれていないリシュカは未だおどおどとして、隣に座るシーナと斜め向かいに座る青年の顔を交互に眺めている。


(えぇっと、この人魔族だよね? 実際に見るのは初めてだけど……何だか思ってた魔族のイメージとは、全然違うなぁ)

「あ えっと……僕、リシュカ=ネオと言います。よろしくお願いします」

頭の中でぐるぐると思考を巡らせながら差し出されたルキフェルの手を取りペコリと頭を下げて、リシュカは自らも自己紹介をした。





「……ネオ? ひょっとして君はルーカスくんの……」

リシュカのラストネームに聞き覚えがあったルキフェルは、一瞬目を丸くして驚いた。

「えっ? 兄をご存知なんですか!?」


「あぁ、うん。ここにもよく来てるし……たまに酒の席に付き合ってもらってるかな」

そう答えてニコリと微笑む。リシュカはぽやんとした表情を浮かべ、優しく微笑むこの魔族の青年の顔をまじまじとみつめてしまっていた。










「ところで、シーナ。一体、これから何に付き合えって言うんだい?」

お互いの自己紹介を終え、少しの間を置いてからルキフェルはシーナに向き直る。


「今月のホワイトデーの事だよ。
ルキも先月あゆたちにチョコレート貰ったろ?」

「……ホワイト……え? 何だって?」

シーナの口から飛び出てきた聞き慣れない言葉に、ルキフェルは複雑な表情をしていた。


「あっ えっと、この国じゃそう言わないんだっけ? ともかく、先月貰った義理チョコのお返しをどうするかって話」

「……あぁ、その事か……。特に何をとは考えてなかったけれど、義理とは言え返さないといけないよねぇ」

困ったように苦笑して、言い直された言葉にルキフェルはそんな答えを返した。

二人が勝手に話を進めていくことに、リシュカは先ほど用意された紅茶を少しずつ口に含みながら、ただその様子を伺っているのだった。




このお返しの相談はしばしの間続くことになる。












「まっ とりあえず、ここいらで割と有名な店に行ってよさ気なものを調達してくるか」

話を始めて小一時間ばかり経過した頃、シーナはそう言って立ち上がった。

「材料の厳選はルキに任せたぜ」

「……いいけど、本気でクッキーを作る気なのかい?」

カップに残っていたコーヒーを飲み干し、またもや怪訝な様子でルキフェルは立ち上がったシーナに疑問を投げかける。

「当然。作るならちゃんと凝ったものを用意しなきゃ、相手に失礼だろ?」

得意気にふふんと鼻をならしてシーナはニヤリと口の端を吊り上げていた。


(――‥義理なんだから、とか言っていたクセに……やれやれ。変な所アスタロテ姉さんに似ちゃってるよ、この子)

あはは、と微かな渇いた笑いを浮かべてルキフェルは内心でそんなことを指摘すると、諦めたように軽く肩を竦め同じように席を立った。

「仕方ないなぁ。まぁ、いいか」

そう独り言のようにぼやいて短いため息を漏らした。








「行くぞ、リシュカ」

「……えぇっ!? ちょっ シーナさん、何を始めるんですか〜?」

唐突に話を振られ、頭の上にいくつもハテナマークを浮かべたままリシュカは座っていた席から有無を言わせず引っ張り上げられた。


「宮廷の厨房を借りるんだよ。エルミナにも許可もらわなきゃなんねぇし、一旦戻るから」

言ってシーナはギルドの入口を目指して歩き出した。
リシュカはどうしたらいいかと考えルキフェルの方を見遣ったが、彼はただ苦笑してひらひらと手を振っていただけであった。



「まっ、待ってシーナさん! あっ あの それじゃあ、ルキフェルさん……また後で? 失礼します」

リシュカは慌ててルキフェルに軽く会釈をすると、よたよたとシーナを追ってその場を退散して行った。










「うぅ〜ん。リシュカくん、ね……ルーカスくんの弟か」

似てないなぁとぼやき二人の少年を見送ったルキフェルは、カウンターに三人分のお勘定を置いてその後を追うように店を出て行くのだった。

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