「――‥どうして俺なんだ!? 兄上がいるのに……!」
謁見の大広間に一人の青年の声が響き渡る。
きらびやかなシャンデリアが飾られた高い天井。床には赤い絨毯が玉座の前まで敷かれており、石造りの床と壁――絨毯と同色の紅蓮の髪を持った青年は、そこに立ち尽くしていた。
「ベルリオール。お前が次期国王となる器を持っていると、言っているのだ」
玉座に身を沈め、長い髭を梳きながら老年の男はそう言い放った。
「……わからない。どうしてだ、父上! 王位など俺はいらない……兄上が次期国王になると信じて、俺は……それをサポート出来ればそれでいいんだ」
ベルリオールと呼ばれた紅蓮の髪の青年は、小さく頭を振ってアイスブルーの瞳を曇らせていた。
「お前に聖獣がついているのが何よりの証拠。代々我がミスティ王家は、王位継承権を持つ者に“聖獣(アリア)”が従うと言われている……」
「そんなことは関係ない! 俺に国王なんて、無理に決まっている」
ベルリオールは玉座に身を沈めた自らの父の瞳を見据え、そう口にした。
だが、王は頑として譲る様子はなく息子のアイスブルーの両眼を厳しい眼差しで見つめ返すばかり。
「……わしもそう長くはない。老衰したこの体では満足に聖力(ちから)も使えぬ。精霊王の決定は絶対なのだ……それが我がミスティ王家の運命(さだめ)」
「っ、」
悔しさからか唇を噛み締めたベルリオールは、赤い絨毯の敷き詰められた床に視線を落とし返す言葉を失った。
緋色の慟哭
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