「……貴様のようないい加減な輩がシャーロムの宮廷騎士団長などと、断じて俺は認めんぞ!!」
宮廷内にある訓練施設――その施設内に一人の男の怒声が響き渡った。
兵士養成所とも言えるこの場所は見習いの兵士たちの稽古場にもなっており、隣接した建物には一般兵用の宿舎や食堂、休憩所なども設けられていて訓練を受けながら生活をするには十分な設備が整っていた。
中央に位置する稽古場に、二人の騎士風の男が向かい合って立っていた。
一人は金色の少し癖のある髪を後ろで一つに束ね、背中に翻されたマントと同色の薄い水色の瞳とまだ幼さの残る端正な顔つきが印象的な青年。
向かい合うは金色の髪の青年とは対照的な雰囲気を持つ、紅蓮の髪と鋭く研ぎ澄まされたようなアイスブルーの瞳のわりと体格の良さそうな男である。
「ベルリオール、いい加減にしてくれないか? どうして君はいつもそうやって私に突っ掛かってくるんだい」
金髪の青年は半ば呆れたような口調で軽く肩を竦めてそう言った。
「貴様の日頃の執務態度に問題があるからだろうがっ! あの名門のアークエイル家の嫡男がこんなアホな男だとは……情けなくて涙がでるぞ!?」
ベルリオールと呼ばれた紅蓮の髪の青年は、対する金髪の青年ののほほんとした表情をしてみせるその態度に頭を抱えたい衝動にかられていた。
「……やめておけ、ベル。ロズウェルに喰って掛かっていったところで、無駄に消耗して疲れるだけだぞ……」
少し離れたところで二人のやり取りを傍観していた深い緑色の魔道士風のローブを纏い、青紫色の髪をアップに結い上げた青年が軽く頭を振りながら深いため息をついてそれを指摘する。
「む。しかしカーティス……」
ベルリオールは渋い顔をして抗議しようとするが、ちらりと睨みを効かせたカーティスの様子にぐっと言葉を飲み込むしか出来なかった。
「――‥失礼致します。ベルリオール王弟殿下、アークエイル騎士団長、ならびにネオグランド魔道士長……
陛下がお呼びです。至急、謁見の間においで下さい」
それから少し経過した頃、この訓練施設に一人の兵士が使いにやってきて三人はそのまま謁見の間に召集されたのだった。
***
「おぉ、来たか三人とも。こちらへ参れ……堅苦しい挨拶などせずともよいぞ」
謁見の間にやってくると、赤い絨毯の先にある玉座で国王が静かに穏やかな表情を浮かべながら青年たちを待っていた。
まばゆいばかりにきらびやかな照明の中でにこにこと優しく微笑むその様子は、豊かなこの国を象徴しているようにすら感じられた。
「失礼します」
言って三人の青年はゆっくりと玉座へと歩みを進める。
ふいに国王の後ろにこそこそと恥ずかしそうに隠れる金髪の幼い少年に気付き、ベルリオールは足を止めた。
「ユーリじゃないか? 何だよ、お前。いつ戻って来たんだ?」
少年の名前をいつも通り愛称で呼び、ベルリオールはほんわかとした優しい表情を見せる。
「……ベルリオール!」
ユーリと呼ばれた幼い金髪碧眼の少年は、玉座の後ろからおずおずと顔を覗かせると
ベルリオールの姿を見つけてパタパタと走り寄ってきた。
がばり。と、嬉しそうにその逞しい腕に飛び込んで行く。
「大きくなったなぁ〜、もういくつだっけ? 久しぶりじゃないか」
「うん。今年で12歳になったよ……叔父上も、変わりないみたいだね?」
にこにこと屈託のない天使のような笑顔を向けて、少年はそう言った。普段は武骨でおおざっぱなベルリオールでさえ、その笑顔にほだされてついつい顔の筋肉が緩んでしまうようだ。
「うわぁ〜 ベルのあんな表情、初めて見た気がするよ」
「ふ……そのようだな。奴もユリシス殿下には弱いと見える……」
そんな会話を交わしながら、ロズウェルとカーティスの二人は少し離れたところからベルリオールとユリシスのやり取りを見ていた。
「お前たちを召集したのは他でもない。このユリシスに剣技と魔法の指導を頼みたいのだ。
引き受けてくれるであろう?」
国王はまた再び穏やかな笑みを湛えてそう言った。三人の青年は、口を揃えて
「陛下の仰せのままに……」
と答え、深く一礼をしてユリシスを連れ謁見の間を後にしたのだった。
ー1/2ー
prev next